【2024年に回答される方必見】CDPスコアアップに必要な取り組みとは

はじめに
 2024年2月15日にリリースしたインサイトで確認したように、CDPの質問内容は機関投資家などの要求をもとに作成されているため、高いスコアを獲得することは企業の市場における評価を高めます。また、TCFDなどの気候変動や環境への対応に関する枠組みに関連していることから、投資機関や世界市場で求められる基準と、自社の取り組みレベルのギャップを把握することに役立ちます。
 そこで今回は実践編として、自社の現状把握から必要な取り組みの実施に至るまでの、CDPの開示に向けた流れについて解説します。

CDP開示に向けた流れ

CDPを適切に開示していくためには、まず初めに、社会から求められている環境課題に対する取り組みについて確認する必要があります。その上で、自社の取り組みレベルとのギャップを把握し、必要な取り組みを実施していくことが重要です。
そのため、本インサイトではCDPの開示に向けた流れについて、以下の3つのステップで解説します。この流れを通して取り組みを実施し、その結果を適切に開示していくことは、高い評価を得ることにもつながります。

STEP1.求められる取り組みの確認

まず始めに、社会から求められている取り組みについて確認します。確認していく上で、投資機関などの要求をもとに作成され、気候変動などの枠組みに関連しているCDPの資料が役立ちます。CDPでは、公式ウェブサイト上において「気候変動」「水セキュリティ」「フォレスト」ごとに、以下に示すような資料を公開しています。例えばCDPガイダンスには、各質問に対して回答の要点が記載されています。これらの資料を踏まえて、求められる取り組みについて確認していくことが重要です。

 

●CDPに関する公開資料一覧

1, CDP質問書:質問内容が記載

2, CDPガイダンス:各質問に対する回答の要点が記載

3 ,CDPスコアリング基準:各質問のスコアリング基準が記載

4, 開示サポート:日本企業向けの回答に向けた補足説明が記載

 

※1~3はhttps://www.cdp.net/en/guidance/guidance-for-companies、4はhttps://japan.cdp.net/disclosure-supportをそれぞれ参照

STEP2.自社の現状把握

次に、自社の取り組みレベルとのギャップを把握するために、現状の把握を行います。前のステップで確認した内容を踏まえ、関連部署と協力しながら社内の環境に関するデータや取り組み、方針について現状を把握する必要があります。

以下は、環境課題に対する取り組みに関して、自社の現状把握に活用することができる基礎的なチェックリストの一部を記載しています。チェックリストと照らし合わせて、自社の取り組みができているか、もしくはデータを収集できているかなどを確認いただけますので、ご入用の方は別途ご連絡ください

なお、以下のチェックリストについては、「CDP questionnaires 2023 General」を基に弊社が独自に整理した情報です。そのため、企業によっては、不要な項目や追加で確認する項目があることにご留意ください。

<気候変動のチェックリスト>

気候変動のチェックリスト

出典:CDP questionnaires 2023 Climate change Generalを基に弊社作成

 

<水セキュリティのチェックリスト>

水セキュリティのチェックリスト

出典:CDP questionnaires 2023 Water security Generalを基に弊社作成

 

<フォレストのチェックリスト>

フォレストのチェックリスト

出典:CDP questionnaires 2023 Forest Generalを基に弊社作成

 

※上記の各種チェックリストをご希望の方はお問い合わせください。

STEP3.必要な取り組みの実施

最後に、自社の取り組みレベルとのギャップを踏まえて、必要な取り組みを実施します。必要な取り組みを実施していくことで、企業はリスクの最小化や機会の最大化につなげることができます。
本インサイトでは、社会から求められる取り組みについて、CDPの得点率に基づいていくつか抜粋して解説します。

 

表1 本インサイトで紹介する取り組み項目

本インサイトで紹介する取り組み項目

 

<共通する項目>

 

1.環境課題に対するガバナンスの構築

 

環境課題に対するガバナンスでは、取締役会(または取締役会と同等の会議体)が気候変動・水セキュリティ・フォレストの課題について監督・責任を負っていることが重要です。
具体的には、取締役レベルで環境課題に対する戦略の策定・見直し、目標の策定・進捗確認などの監督を行い、責任者もしくは責任を負う委員会を設けていること、取締役に環境課題に関連する長期的なインセンティブを与えていることが求められます。
そのため、ガバナンスの取り組みを進めるためには、環境課題に取り組む意義や、外部からの現在・将来の圧力を取締役が理解し、企業の重要事項に環境課題への対応を組み込むことが重要です。

 

2.環境負荷低減のための目標設定

 

環境負荷低減のための目標は、地域のリスクや事業リスク低減に向けた指標(GHG排出量や取水量、生態系の保護)としきい値を適切に設定することが重要です。
具体的には、各質問書において以下の表3に整理した目標を設定することが求められます。
目標設定のためには、まず目標の対象となるGHGや水量、トレーサビリティ状況などを評価した上で、実現可能な目標を設定していくことが重要です。また、水の目標については、SBTN(Science Based Targets for Nature)などのガイドラインで記載されているように、今後、流域の状況を加味した上で目標を設定する可能性があります。詳細については弊社インサイトをご確認ください。
(詳細は弊社インサイト『ドラフト版ガイダンスに基づいたSBTs for Natureの解説』https://sustainability-navi.com/insight/020/ をご覧ください。)

 

表2 求められる目標の内容

求められる目標の内容

出典:CDP questionnaires 2023 General を基に弊社作成

 

 

3.バリューチェーンへのエンゲージメント実施

 

エンゲージメントでは、サプライヤーや顧客に対して、バリューチェーン全体の環境負荷を軽減するようにインセンティブの付与や協働などの取り組みを行うことが重要であり、以下の表に示すエンゲージメントの対象割合や契約内容、エンゲージメントの内容が求められます。
そのため、エンゲージメントを進めるためには、アンケートやこれまでの関係性を基に、エンゲージメントが可能なサプライヤーなどを選定し、対話を通してエンゲージメントの内容を決定し、随時対象を拡大させていくことが重要です。

 

表3 求められるエンゲージメントの内容

求められるエンゲージメントの内容

出典:CDP questionnaires 2023 General を基に弊社作成
※1 顧客とその他パートナーは任意
※2 流況や水量の影響、水質の依存度等で評価
※3 例:水関連リスクの定期評価の実施、取水量削減目標の策定・モニタリング
※4 エンゲージメントによる有益な成果と成果の評価指標が必要

 

<気候変動>

 

4.バリューチェーン全体のGHG排出量の算定

 

GHG排出量の算定では、「GHG protocol」という国際的なガイダンスに基づいて、バリューチェーン全体のGHG排出量(Scope1,2,3)を算定する必要があり、報告年において前年度より削減していることや除外が無いことが求められます。そのため、GHG排出量の算定を進めるにあたっては、算定の目的と計算方法を確認した上で、企業の活動量データと、それに一致する排出係数を収集して計算をすることが重要です。
また、算定した結果については第三者検証機関によって認証されていることが非常に重要視されるため、第三者検証に備えて算定方法や社内体制が分かるように資料を整理しておく必要があります。

 

5.シナリオ分析

 

気候変動において、リスクと機会を評価する上で、シナリオ分析が重要です。シナリオの種類としては、地球温暖化や気候変動が進行した場合の物理的シナリオと、気候変動に関する長期的な政策動向による事業環境が変化した場合の移行シナリオがあります。
シナリオ分析では、事業活動全体を対象に実施すること、1.5℃の移行シナリオと3.1℃以上の物理シナリオを使用すること、そしてシナリオ分析結果を参考に適切な気候移行計画を策定することが求められます。
そのため、シナリオ分析を進めるにあたり、GHG排出量算定の結果を基に気候変動関連のリスクと機会を特定し、以下の表に示されているシナリオを用いて将来のリスクと機会を評価することが重要です。

 

表4 求められるシナリオの例

求められるシナリオの例

出典:CDP reporting guidance 2023 Climate changeを基に弊社作成

 

<水セキュリティ>

 

6.水関連情報(取排水量、排水水質)の収集

 

水関連情報(取排水量、排水水質)の収集では、以下の表に示す情報を収集する必要があり、測定比率が100%である、総取水量および水ストレス地域の取水量が前年度に比べて等しい、もしくは少ないことが求められます。
そのため、水関連情報の収集を進めるにあたり、測定できていない項目や拠点を整理し、測定方法を確認した上で実施することが重要です。また、測定後は、前年度に比べて取水量が増加しないための対策も必要となります。

 

表5 水関連情報一覧

水関連情報一覧

出典:CDP reporting guidance 2023 Water securityを基に弊社作成

 

7.水リスクの特定

 

リスクの特定では、直接操業とサプライヤーを対象に、拠点が立地する流域のリスク(水量、水質、水害など)と事業への影響度(取水量、排水水質、売上など)を掛け合わせて、そのリスクの潜在的な影響額の特定と対策を行う方法があり、以下に示す内容を踏まえていることが求められます。

✔ 直接操業とサプライヤーの全てを対象に評価している
✔ 3年以上先のリスクを考慮している
✔ 自社固有のリスクを特定している
✔ リスクによる財務影響額を計算方法とともに示している
✔ リスクへの対応を説明している
✔ 対応にかかる費用を計算方法とともに説明している

 

<フォレスト>

 

8.森林関連情報の収集・推定

 

森林関連情報の収集・推定では、直接操業の森林コモディティに関する売上割合と生産量/消費量のデータ(認証割合含む)とともに調達物のDCF量と非DCF量の内訳、法律管轄区域別の内訳、森林に与えた影響と対応、森林/転換の評価割合を収集および推定することが求められます。
そのため、森林関連情報の収集・推定を進めるにあたり、収集すべきデータを整理し、調達部門などの関連部署と協力し、調達物の森林関連情報がどこまで収集できるかを確認することが重要です。また、収集が難しいデータについては、文献調査などを行い、推定する必要があります。

 

9.トレーサビリティの向上

 

トレーサビリティの向上では、調達している森林コモディティがどこで生産されているかを把握することが重要であり、州や地方自治体、加工場、農場のいずれかでトレーサビリティが取れていることが求められます。
トレーサビリティの向上を進めるにあたり、現状の調達物のトレーサビリティ状況を確認し、調達先とのエンゲージメント実施や、認証を所得している製品の購入切り替えなどを行う必要があります。

 

10.第三者認証の採用

 

第三者認証の採用では、調達している森林コモディティが以下の表にあるFSCやRSPO、RTRSなどの認証を受けていることが重要であり、調達物の90%以上が第三者認証を受けていること、使用される加工・流通過程管理モデルがアイデンティティ・プリザーブドもしくはセグリゲーションであることが求められます。
第三者認証の採用を進めるにあたり、目的に合った第三者認証を選択することが重要です。

 

表6 森林に関する第三者認証の例

森林に関する第三者認証の例

出典:CDP reporting guidance 2023 Forestを基に弊社作成

まとめ

  • 環境課題の解決に向けて、CDPなどの資料を確認し、自社の現状を把握した上で、必要な取り組みを実施していくことが重要である
  • CDPの資料などを活用して、社会から求められる取り組みについて確認する
  • 自社の取り組みとのギャップを把握するために、自社の環境に関するデータや取り組み、方針について現状を整理する必要がある
  • 求められる取り組みについて、不足している項目がある場合は、取り組みの計画を立てることが重要である

 

八千代エンジニヤリング株式会社では、サステナビリティの専門家が多く在籍しており、初めてCDPの回答に取り組まれる企業様へのアドバイスや、さらなるスコアアップに向けた取組みのご支援を行っております。「スコアアップしたい」「初めて回答するので不安である」などのお悩みをお持ちの方は、是非ご相談ください。CDPのコンサルティングパートナーとして、役立つ情報をご提供いたします。

 

 

 

執筆者:霜山竣、中野晴康

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