ネイチャーポジティブとは? 背景や目的、企業の取り組み事例をわかりやすく解説!

生物多様性の消失と劣化が進む現代において注目されているのが、生態系や気候変動などへの影響に配慮しながら経済活動を行う「ネイチャーポジティブ」の考え方です。
この記事では、ネイチャーポジティブの内容、必要性、実現に向けた対策、企業の取り組み事例を解説します。持続可能な未来への一歩を踏み出すため、経営者から現場作業者まで知っておきたい有益な情報となっていますので、ぜひご覧ください。
ネイチャーポジティブとは
ネイチャーポジティブとは、「ネイチャー(=自然)」と「ポジティブ(回復軌道にのせる)」からなり、自然の損失を止め、プラスに反転させていこうという考え方です。
健全な自然と生物多様性は人類存続の基盤であり、社会経済活動を営み続けるには、自然資本の量と質を維持することが欠かせません。しかし今日、地球上ではかつてない速さで自然が消失・劣化し、生物多様性が失われている「ネガティブ」な状態です。
ネイチャーポジティブは、自然環境の保全にとどまらず、地球上の生態系を回復させるために社会全体で取り組むことを目指しています。その実現のためには、気候変動対策や持続可能な生産、消費と廃棄物の削減など幅広い取り組みが必要です。
(出典)
環境省|ネイチャーポジティブ
環境省|事業者のための生物多様性民間参画ガイドライン 第3版
ネイチャーポジティブが求められる背景と目的
持続可能な開発目標(SDGs)、パリ協定など、地球環境保全に関する国際協力の流れのなかで、ネイチャーポジティブの概念は生まれました。ネイチャーポジティブは、経済成長と自然環境保全の両立を目指すSDGsの基盤となり得るほか、気候変動とも密接に関係する重要な概念です。
特にグローバルに展開する企業にとって、地球環境と自然資本を持続可能にしようとする潮流と無縁でいることは難しいでしょう。ネイチャーポジティブが提示された背景と目的、世界の動向などについて解説します。
ネイチャーポジティブに関する動き
生物多様性・自然資本分野において実効力のある目標を設定すべきという議論は、2019年に環境保護団体と民間企業から始まりました。2021年に公表された「A Nature-Positive World: The Global Goal for Nature」では、「ネイチャーポジティブ」という目標が必要との認識が科学的知見をもとに述べられています。
2022年には、生物多様性条約締約国会議(COP15)で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」において「ネイチャーポジティブ」の方向性が示されました。そのなかで、2050年ビジョン「自然と共生する世界」にむけ、自然を回復軌道に乗せるために、生物多様性の損失を止め反転させるための緊急の行動をとることが2030年ミッションとされています。
国内では、昆明・モントリオール生物多様性枠組を踏まえ、生物多様性国家戦略2023-2030においてネイチャーポジティブが盛り込まれました。ポイントは次のとおりです。
- 生物多様性損失と気候危機の「2つの危機」への統合的対応
- ネイチャーポジティブ実現に向けた社会の根本的変革を強調
- 30by30目標の達成などの取り組みにより健全な生態系を確保し、自然の恵みを維持回復
- 自然資本を守り活かす社会経済活動 (自然や生態系への配慮や評価が組み込まれ、ネイチャーポジティブの駆動力となる取り組み)の推進
この戦略は、「2030年ネイチャーポジティブ」の実現を目指し、生物多様性・自然資本を守り活用するための世界に先駆けた内容となっています。
ネイチャーポジティブと情報開示
企業が自然への依存度や影響を把握し開示する枠組みである「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」が2021年6月に設立されました。TNFDの目標は、「自然に負の影響を与える資金の流れを転換させ、生物多様性を回復に向かわせる」ことです。
気候変動対策の分野で、地球温暖化のリスクに関連する情報開示が急速に広がったのはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の設立が大きく影響しています。今後、企業が長期的に発展していくためには、気候変動対策と同様に、自社事業と自然環境との関係性を評価し情報を開示していくことが必要となるでしょう。
(出典)
環境省「ネイチャーポジティブ経済に関する国内外の動向」
ネイチャーポジティブへの対応
ネイチャーポジティブの軽視はリスクにつながりますが、積極的な取り組みはビジネスチャンスとなりえます。「第18回グローバルリスク報告書 2023年版」において、10年後に最も深刻化すると想定されるリスクの4位が「生物多様性の喪失や生態系の崩壊」、6位が「天然資源危機」です。 一方、世界経済フォーラム(2020)をベースとした推計では、2030年のネイチャーポジティブビジネスの推計額は最大104兆円で、2020〜30年の成長率は16.5%とされています。
企業のネイチャーポジティブへの転換を後押しするため、環境省は「 事業者のための生物多様性民間参画ガイドライン 第3版」を発行しました。ガイドラインによると、生物多様性の配慮のための基本プロセスとして、次の流れが示されています。
1. 関係性評価・体制構築
自社と生物多様性の関係性を認識し、体制の構築を行い、自社およびサプライチェーン・バリューチェーンにおける事業活動と生物多様性・自然資本とのより詳細な関係性(影響・依存度・ リスク・機会など)の把握・分析を行い、自社にとって重要な分野を把握する。
2. 目標設定・計画策定
戦略・方針とそれを裏付ける指標や目標を定め、さらに、それらを実践するための取り組みの実施計画やモニタリング計画を設定する。
3. 計画実施
具体的な計画や取り組みを実施する。
4. 検証と報告・見直し
進捗状況・結果を適宜モニタリングし、必要に応じて計画・目標・体制などの見直しを行う。
企業の事業活動の種類や組織の規模などの実情に合わせて柔軟にプロセスを取り入れること、情報開示して透明性を確保することも重要です。リスクを回避しチャンスを逃さないためには、ガイドラインなどを参考にしながら、ネイチャーポジティブ対策の検討をいち早く始めるべきでしょう。
ネイチャーポジティブに対応する企業の取り組み事例
すでにネイチャーポジティブに取り組んでいる企業の事例をご紹介します。
花王株式会社
花王株式会社は、事業活動の全工程で生物多様性への影響を最小限に抑えることを目指しています。
特に、パーム油の需要増加に伴う森林破壊や原材料不足の問題に対処するため、代替技術開発に取り組んでいます。バイオIOSの開発やキャッサバ残渣(ざんさ)からのバイオ活性剤製造、微細藻類による油脂生産技術などがその例です。
また、持続可能なパーム油ネットワーク(JaSPON)での活動、緑地保全、生物多様性保全への社員参画促進など、生物多様性の主流化に貢献しています。さらに、製品使用後の環境への影響を最小化し、プラスチック包装容器や海洋プラスチック問題への対策も進めています。
太平洋セメント株式会社
太平洋セメント株式会社は、鉱山の開発から操業、跡地利用に至る全過程で地元と協力し生物多様性の保全に努めています。
特に重視しているのが、石灰石の採掘における環境影響の最小化、生態系と地元振興の両立です。GCCAガイドラインと生物多様性統合評価ツール(IBAT:Integrated Biodiversity Assessment Tool)を使用し、生物多様性評価を行い、環境影響を考慮した採掘を実施しています。
また、2023年には「生物多様性のための30by30アライアンス」に参加しました。希少野生動植物種の保全活動など、生物多様性との関わりが深い鉱山事業において、ネイチャーポジティブの実現に貢献しています。
株式会社ロッテ
株式会社ロッテは自社および子会社の生産拠点(国内8拠点、海外4拠点)について半径10km以内をIBATを用いて調査し、生物多様性リスク評価をしています。また、 世界資源研究所(WRI:World Resources Institute:)のAQUEDUCT Water Risk Atlasにより水リスク評価を行っており、2022年時点で生産拠点周辺のリスクレベルがExtremely Highレベルにはないことを確認しました。
さらに、2023年度までに国内工場の生産工程から、2028年度までに国内外全ての工場において、排出される廃棄物を99%以上リサイクルすることを目標に掲げています。製品の容器包装は環境に配慮して設計し、できるだけ原材料の使用量を削減するなどの省資源化やリサイクルしやすい容器包装の開発に取り組んでいます。
まとめ
この記事では、ネイチャーポジティブの定義、必要性、対策、企業の取り組み事例を紹介してきました。これからの事業活動に、ネイチャーポジティブの視点を取り入れ、自然環境の回復と自然資源の維持に貢献することが、企業の長期的な発展につながります。ぜひ参考にしてみてください。
執筆者:霜山 竣、中野 晴康



