
Project-file24
単なるデータ開示にはしない――TNFD推進で「人・社会・地球」への貢献を深掘り

三菱マテリアル株式会社
三菱マテリアル株式会社
サステナビリティ推進部 安全環境品質室地球環境グループ 兼 環境保全センター森林管理室
松本 啓吾 様
三菱マテリアルは銅を中心とした非鉄金属素材、付加価値の高い機能材料や製品を製造する非鉄金属メーカーです。「人と社会と地球のために、循環をデザインし、持続可能な社会を実現する」ことを「私たちの目指す姿」と定め、その実現に向け、 資源循環の拡大と高機能素材・製品の供給に取り組んでいます。
生物多様性については、マテリアリティの中で「生物多様性の確保」を重要テーマと位置づけ、製造拠点の環境管理や原料調達方針に反映しています。2025年5月には、自然との共生を重視する姿勢の下、「自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:TNFD)」のフレームワークに沿った「TNFDレポート2025」を公表しました。これに先立ち2024年には「生物多様性保全方針」も策定し、事業活動が自然に与える影響の把握やリスク評価を進めています。
今回八千代エンジニヤリングには、TNFDの推奨するLEAPアプローチによる情報開示の支援をお願いしました。
- 概略調査
- 詳細調査
- 目標設定・
ビジョン - 対策
- 発信
課題
- 分析の妥当性の向上に加え、不足している情報についても収集したい。
- ツールを活用した開示では、各事業や地域の実情に合わせた具体的な情報が出しにくい。
- 義務的にこなすのではなく、会社が掲げる企業理念と結びついた主体的な取り組みとしてTNFD開示を進めたい。
サポート概要
- TNFDのLEAPアプローチに基づく、自然関連の評価から開示までのプロセス全般における支援
“単なるデータ開示”にはしたくなかった

社内における生物多様性保全への意識醸成や、TNFDに対する認知度の向上が、三菱マテリアル株式会社(以下、当社)にとって大きな課題でした。
気候変動については長年取り組んできた背景があり、一定の理解が浸透してきました。気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:TCFD)については、当社は2020年よりコンソーシアムに参画し取り組みを進めていました。一方、生物多様性や自然資本に関する議論は、私たちの業界でもここ1~2年で急速に注目されるようになった分野です。その課題意識を社内全体に広げることは、非常に難しいと感じていました。
私はもともと10年近く、当社の社有林管理に携わっていました。3年前に地球環境に関する課題を扱う部署に異動し、生物多様性保全や水問題などの自然関連の業務を担当することになりました。TNFDについては、当社も私自身も、取り組みの経験や知識がありませんでした。そのため環境省が公表していた事例や、他社の取り組みなどを調査するところから開始し、環境関連のコンサル企業が開催するセミナーでの情報収集も行いました。
TNFDが活用を推奨する分析ツールでの自然への依存・影響の特定および要注意地域の特定については、どういったことをすればよいのかイメージがよくできていました。しかし当時、公になっていた事例の多くが、ツールを使った評価データそのものの開示のみに留まっていたことが気になっていました。私たちとしては、それに留まらない、当社の各事業や地域の実情に合わせた、掘り下げた内容でTNFDの情報開示を行いたいと考えていました。私たちとしても、生物多様性保全を行っている他のコンサル会社に相談しつつ、いろいろと試行錯誤していましたが、腹落ちするような成果がなかなか得られませんでした。
模索を続けるなかで、CDP質問書への回答をするにあたり長年支援を受けてきた八千代エンジニヤリングが、TNFDについても対応可能であることを知りました。CDP対応においても、現場の実情や当社の考え方に丁寧に寄り添いながら、本質を突いた的確な指摘をいただき、その支援の質には以前から厚い信頼を寄せていました。今回の決め手となったのは、私たちがTNFDを単なる開示で終わらせず、経営課題と結びつけた主体的な取り組みにしていきたいという想いに対して、八千代エンジニヤリングが深く理解を示してくれたことでした。
一つひとつ丁寧に現場に寄り添い、いつも的確なアドバイスをしてくれたコンサルタント

八千代エンジニヤリングには、TNFD開示レポートの作成というゴールに向けて、LEAPアプローチに基づく分析と、それに基づく開示支援をお願いしました。具体的には、Locate(自然との接点の発見)、Evaluate(依存と影響の評価)、Assess(重要なリスクと機会の評価)、Prepare(対応と報告の準備)の各フェーズにおいて、きめ細やかなサポートをしていただきました。
八千代エンジニヤリングからは、分析に必要なデータについて具体的に指示をいただきました。こちらで集めたデータを渡すと、それらを用いて評価・分析して結果を返していただく、という流れでした。定期的なミーティングで進捗を確認し、必要に応じて個別メールやWeb会議で直接会話をしながら、密に連携を取りながら進めていきました。八千代エンジニヤリングのコンサルタントの方とは基本的にオンラインでのやり取りでしたが、意思疎通で困ることはほとんどありませんでした。
社内での進め方としては、レポート作成委員会を設け、各事業部門の部長クラスに参加してもらっていました。委員会では分析内容のフィードバックやレポート原稿の提示を行いました。当社がENCORE※で分析した事業数は17と多岐にわたっており、拠点も国内外に300以上あります。そのため関係者が非常に多くなり、短期間での作業は想像以上に大変でした。社内での調整は、主に私が各事業担当者や委員会のメンバーと行っていました。特にレポート作成の段階では、各部署との細かな連絡が頻繁に必要となりました。社内から寄せられるさまざまなフィードバックに対しては、コンサルタントの方が一つひとつ丁寧に対応してくださいました。
LEAPアプローチに基づく分析のなかで、Locateフェーズでは、八千代エンジニヤリングから提案してくださった方法について、私たちの考えを尊重しながら柔軟に修正してくださっています。Evaluateフェーズでは、事業活動と自然との依存・影響関係の評価を実施しています。評価結果が出た時点で、社内からはかなりの要望や意見が出ました。こういった要望や意見に対しても柔軟に対応していただき、評価結果の補正を行っていただきました。また分析スケジュールからするとタイトなタイミングで追加対応の要望が出たときも、八千代エンジニヤリングのコンサルタントの方は嫌な顔ひとつせず、修正や再分析などに柔軟に対応してくださいました。私たちの事業特性を理解し、主体的な取り組みを重視する姿勢が、ここでも強く感じられました。
こちらのニーズに常に応えようとしてくださる八千代エンジニヤリングの真摯な姿勢に大変感謝しています。こちら側の考え方や想いを踏まえたうえでの調整を、粘り強く続けてくださったことが、レポートという成果物の納得感につながったと感じています。
八千代エンジニヤリングの密なコミュニケーションと柔軟な対応がなければ、短期間でこれだけの多岐にわたる事業のTNFD開示をまとめることは不可能だったでしょう。おかげさまで、当初の目標であった開示まで、たどり着くことができました。
TNFDの取り組みをさらに深化させる

今回、八千代エンジニヤリングとともに作成したTNFDレポートは、目標としていた開示に短期間でたどり着くことができ、かつ当初の狙いどおりのレポートが作成できたと考えています。
サステナビリティ情報の開示に関する社内の会議体においても、今回のTNFD開示の取り組みを紹介しており、社内関係者への共有を図っています。また従前より、投資家との面談のなかで、自然関連の取り組みについて開示の充実化を望む声もあがっていたため、今回の開示は好意的に受け止められるものと考えています。三菱マテリアルの企業価値向上につながっていくものと期待しています。
今回の取り組みは、あくまで、当社の自然や生物多様性保全に関する取り組みのファーストステップだととらえています。今後は、社内外の反応、に注意深く耳を傾けながら、次の取り組みを決めていきたいと考えています。
現在、検討していることの1つは、TNFD分析のバリューチェーン上流部分の深掘りです。当社は鉱物資源を取り扱う企業ですので、原材料の調達段階における自然関連の状況、影響、依存、リスクなどを評価することは非常に重要だと考えています。また、各拠点単位でのリスクや機会、依存、影響の状況をより詳細に把握していく必要も感じています。これらについて、八千代エンジニヤリングとともに進めていくことも選択肢として考えています。
さらに、当社が推進する資源循環のビジネスと、生物多様性保全や自然への配慮の取り組みは、非常に親和性が高いと考えています。これらの取り組みをうまく連携させ、相乗効果やシナジーを生み出せるようになれば、と期待しています。八千代エンジニヤリングには、今後もサステナビリティ分野でさまざまな形で連携を深めていければと考えています。
※ENCOREとは
ENCOREとは、「Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure」の頭文字を取ったもので、組織が自然関連リスクへのエクスポージャー(感応度)を調査し、自然への依存と影響を理解するために役立つ無料のオンラインツールです。主に、企業、金融機関、規制当局の利用を想定しており、生物多様性と生態系サービスへの潜在的な依存と影響関係を評価することができます。このツールは、Global Canopy、UNEP FI、UNEP-WCMC といった諸機関によって維持管理され、継続的に改善されています。

三菱マテリアル株式会社
三菱マテリアル株式会社は、「人と社会と地球のために、循環をデザインし、 持続可能な社会を実現する」ことを「私たちの目指す姿」とし、銅を中心とした非鉄金属素材、 付加価値の高い機能材料や製品を製造する非鉄金属メーカー。 高度なリサイクル技術による廃棄物の再資源化を通じ、「循環型社会構築」への貢献を目指しています。
https://www.mmc.co.jp/corporate/ja/お問い合わせ
ご不明な点はお気軽にお問い合わせください。
専門スタッフが不明点についてご説明いたします。