サプライヤーの水リスク評価

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企業の水リスクを考える際には、サプライチェーンの上流から下流における水リスクによる間接的な影響も無視することはできません。特に上流側の原料調達においては、水の使用量が多い原料の生産により地域の水資源に負荷をかけたり、水害などの自然災害や規制・評判等のリスクにより生産が停止してしまう恐れがあります。また、今後これらのリスクは気候変動等の影響によってさらに顕著になってくると考えられます。

こうしたリスクが発生した場合、予定していた調達が困難となり、最終的に自社の操業が停止してしまうとともに、サプライチェーン下流への商品の安定供給が絶たれ、顧客との信頼関係を損なう可能性もあります。

このような影響は世界中で発生する可能性があるため、安定的な製品製造の観点から自社のサプライヤーが抱える水リスクを把握することが重要です。この記事では、サプライヤーにおける水リスク評価の方法について紹介します。

サプライヤーの水リスク評価における重要な観点

SBTN(Science-Based Targets for Nature ※)では、「バリューチェーン全体」で事業活動による自然への影響/依存関係を多面的に把握するとともに、活動場所によるリスクの種類や程度を把握することが推奨されています。この「影響/依存関係」と「活動場所のリスク」の2点を評価するためには、サプライヤーの位置情報や調達量・水使用量などの事業情報が必要になります。

ただし、上記の情報を把握しているか、また、サプライヤーから情報提供してもらえるかは企業によって異なるため、以降ではサプライヤーに関する情報の入手状況とエンゲージメントのとりやすさの観点で、水リスク評価のアプローチを説明していきます。

※ 企業の自然資本利用に関する目標のこと。SBT(Science-Based Targets)では、企業の温室効果ガス排出削減目標について先行して取り組まれてきたが、SBTNでは、水、土地、生物多様性、海洋等の自然資本に関するSBTの採用が目指されている

サプライヤーの水リスク評価のアプローチ

前述の通り、サプライヤーの水リスク評価を行う際には、対象とするサプライヤーの情報やエンゲージメントの有無によって評価のアプローチが異なってきます。

今回は図1に示すように、「サプライヤーに関する情報」がある場合とない場合及び「サプライヤーとのエンゲージメント」が取りやすい場合と取りにくい場合の4つの象限に分けて具体的な評価の方法を説明したいと思います。

サプライヤーの水リスクを評価するには「サプライヤーに関する情報」と「サプライヤーとのエンゲージメントのとりやすさ」の2軸で4象限に分けて考えるのが望ましい

図1. サプライヤーの情報量とエンゲージメントの状況ごとの評価アプローチ

サプライヤーの水リスク評価方法

「サプライヤーの情報」と「サプライヤーとのエンゲージメント」という2軸によって、サプライヤーを4つの象限に分けることができます。ここからは、象限ごとの適切な評価アプローチを解説します。

1. サプライヤーからの水リスク評価結果の提供/自社によるサプライヤーの水リスク評価

サプライヤーが各拠点の水リスク評価を実施していれば、その情報を収集し、自社への影響を把握できます。評価を実施していない場合でも、サプライヤーに関する情報が十分であれば、自社によるサプライヤーの水リスク評価が可能です。

2. 自社によるサプライヤーの水リスク評価

サプライヤーの生産拠点・生産地の位置や調達量などの情報があれば、自社による水リスク評価が可能です。

具体的な方法としては、水量リスク(原料の生育や精製に必要となる水の確保が困難となるリスク)や自然災害リスク(洪水や干ばつリスク)、規制・評判リスクなどの調達への影響が想定されるリスクを設定し、Aqueductなどのグローバルツールによって拠点が位置する流域の水リスクを抽出します。

また、各拠点の水消費量や調達量などの事業特性を整理し、流域リスクと2つの軸で事業への影響が大きいサプライヤーの拠点を抽出します(図2)。

「事業特性」と「水リスク調査」の2軸で、影響が大きいサプライヤーの拠点を抽出する

図2. 高リスク拠点の抽出方法例

3. サプライヤーのCDP回答による水リスク評価

サプライヤーに関する情報がなく、情報収集も難しい場合は、CDP水セキュリティの回答結果からサプライヤーの水リスクを簡易的に評価することが可能です。

CDPでは、企業の水に関する需要度や管理状況に加え、水リスク評価の内容や抽出された高リスク拠点及びそのリスク低減策などの記載が求められることから、それらの内容を踏まえ、「水に関するマネジメントの状況」と「高リスク拠点の状況」を把握することができます。最終的には自社が調達しているサプライヤーの生産拠点の情報を調達部署などと連携して収集し、CDPで把握した高リスク拠点による影響を受ける可能性がないかを把握します。

4. サプライヤーからの水リスク評価結果の提供

1.で説明した通り、サプライヤーが各拠点の水リスク評価を実施していれば、その情報を提供していただき、自社への影響を把握することが可能です。評価を実施していない場合でも、サプライヤーからの情報収集は安易に実施できることが想定されるため、収集した情報をもとに自社による水リスク評価が可能になります。

評価に際しての留意点

ここまで各象限におけるサプライヤーの水リスク評価方法を説明しましたが、サプライヤーに関する情報量が評価の質を左右することが分かるかと思います。より詳細な情報を入手できていれば、評価の際に事業分類や調達品目ごとにリスクを把握することも可能です。

一方で、サプライヤー情報の収集状況が把握できていない場合、まずは自社の調達部門や生産拠点へのアンケートなどを通してヒアリングを行い、必要な情報を収集するといったステップが必要です。

なお、今回提示した4つの方法のうち、2.や3.については、サプライヤー自身による評価ではないため、自社の評価結果に関してサプライヤーにヒアリングを行い、現地の状況に則した結果に補正することが望ましいと考えます。

サプライヤーへの対応方針の検討

サプライヤーの水リスク評価によって抽出された高リスク拠点については、グローバルツールの評価範囲の粗さやCDPの開示情報に偏りもあるため、詳細なリスクは地域ごとに精査がすることが望ましいと考えます。また、高リスク拠点の対応策については、図3に示すような自社による調達方針の見直しやサプライヤーと自社とで連携した水リスクマネジメントの教育などが具体的な取組みとして挙げられます。

持続可能な調達の実現に向けた、自社とサプライヤーのコミュニケーションを示した図

図3. サプライヤーとの調達に関する対応方針の検討例

今後サプライチェーンマネジメントで求められること

CDPではサプライチェーンのリスク評価やそのリスクへの対応等の質問が設けられていますが、今後は各種ガイダンスの公表によって、サプライチェーン全体のマネジメントに対する機関投資家等の要請がさらに強まることが想定されます。

一方、サプライヤーに関する情報は非常に多く、情報収集を行う際には、自社の調達部署や生産拠点、サプライヤーなどの多くの関係者と連携を取る必要があるため、評価の実施までに時間を要することが想定されます。そうした中で、まずは企業ごとに現状を踏まえた「可能な方法」でサプライヤー評価の一歩を踏み出すことが重要になります。

サプライヤーの水リスク評価に取り組まれていない企業の方は、ぜひこれを機会に、評価やそれに向けた準備を始めてみてはいかがでしょうか。

まとめ

サプライヤーの水リスクをマネジメントしていくうえで重要な観点を以下に示します。

  1. まずは自社のサプライヤーに関する情報の収集状況を把握する
  2. サプライヤーの情報とエンゲージメントの取りやすさを踏まえて、可能な方法で評価を始める
  3. 評価結果について詳細なリスクの精査やそれを踏まえた自社による調達方針の見直し、サプライヤーと連携した水リスクマネジメントの教育を進めていく

執筆者:岡田 和也

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