COP26は今後企業にどのような影響を与えるのか
序文
2021年10月31日(日)~11月13日(土)、英国・グラスゴーでCOP26が開催されました。「COP」は国連の「気候変動枠組条約」に参加している国が集まる会議で、26回目の開催でした。
COP26では、産業革命前からの気温上昇幅を世界の目標としての「1.5度」とすることが強調されました。そして、継続的な「2030年目標の見直し」が求められています。さらに、パリ協定第6条が、複数の国が協力して排出削減するためにルールの整備がされました。
今回の決定が、企業に対してはどのような影響をもたらすのでしょうか?その概要をご説明します。
COP26の着目点
COP26は、年々上昇する気温と、それに伴い規模も頻度も増加する自然災害、海面上昇、干ばつなどにより、無数の命が失われ、重大な経済的損失を引き起こす恐れがあると予想される状態を前に、国際社会がどのような対策をとるのか、話し合うための会議です。
COPの着目点は3つ。
1つ目は、米国のバイデン大統領の参加です。米国は、温暖化対策に後ろ向きだったトランプ政権からバイデン政権に交代して初めてのCOP参加となりました。バイデン大統領は「気候変動対策は経済的機会と捉えるべきだ」と訴えており、米国の参加によりCOP閉幕後も気候変動対策推進の動きはさらに加速していくと考えられます。
2つ目は世界最大の温室効果ガス排出国である中国とアメリカが共同宣言を発表し、メタンの排出削減に向け協力することで合意したことです。このほか、共同宣言では、米中両国が2022年上半期に、メタンの測定と削減強化の具体的事項を検討する会議を共同開催する予定としています。温室効果ガス排出国第1位の中国と、第2位の米国との間で宣言が合意され、気候変動に対する積極的な姿勢が示されたことで、今後メタンの排出量にも対策が必要となるでしょう。中国・生態環境部気候変動対応司の陸新明副司長は、11月25日の定例記者会見で、温室効果ガスの一種であるメタンの排出削減に向けた行動計画を制定する方針を示しています。
3つ目は先進国と新興国・途上国との軋轢です。先進国が温暖化ガス削減を進めても、新興国・途上国で排出量が増加すれば、世界目標を達成することはできません。しかしながら、新興国・途上国は、産業革命以降、長きにわたって温暖化ガスを大量に排出しながら成長を続けてきた先進国こそが、より積極的な排出量削減目標を持つべきだと考えており、先進国と新興国・途上国とは異なる削減目標を持つべきと新興国・途上国は主張しています。
先進国のこれまでの資本主義社会での発展は、途上国の資源の搾取により支えられてきました。これから新興国や途上国が経済発展するために、さらなる未開拓地からの資源搾取を行うことが必要になる可能性があります。すなわち、先進国と新興国・途上国との軋轢は温室効果ガスだけの課題ではなく、資本主義社会の持続可能性にとっても重要な観点だといえます。
COP26の結果と今後の課題
米国や中国の動きや、先進国と途上国の軋轢といった事項が着目される中、COP26 の結果として重要なメッセージがあります。
1つ目のメッセージは、世界の目標としての「1.5度」の強調です。COP26の会議直前に発表された国連報告書において、各国の掲げている2030年目標を達成できたとしても、世界の平均気温は2.7度上昇してしまうとの報告がなされました。「1.5度」を各国が目指す世界目標としてより強く位置づけ、この10年間で対策の加速が求められています。
2つ目のメッセージは、継続的な「2030年目標の見直し」です。2030年といえば9年後。今回のCOP26に合わせて、多くの国が、既存の2030年目標の見直しましたが、まだできてない国もあります。加えて、強化された目標を反映したとしても、地球の平均気温「1.5度」上昇に抑えるという目標には届かないことが示される中で、2022年末までに、「2030年目標再度見直し、強化」が各国に要請されました。
温室効果ガス削減の取り組みは、経済活動への負担は決して小さいとは言えません。しかし、既にこれをチャンスととらえている国もあります。技術が進んでいる先進国と協力して地球温暖化と環境問題の解決に取り組むことは、自国を温暖化の悪影響から守るだけでなく、環境技術の向上、新しい産業への投資を呼び込むことによる雇用の増加、さらには国際社会での発信力の強化など、メリットがあります。先進国と途上国が、互いに環境分野で協力し、改善を目指すことが必要不可欠と言えそうです。
企業への影響は?
今後世界の潮流として、より厳しい温室効果ガス排出削減目標が求められる可能性があります。また、現在地球温暖化を防ぐ施策の中心となっているのは、発電や森林伐採といった活動で生まれる二酸化炭素(CO2)ですが、今後はメタン削減にも注目が集まると考えられます。全世界で排出されるメタンの約40%は、湿地帯などの自然環境からの発生ですが、排出の50%以上を占めるのは、畜産、穀物生産、ごみ処理などの人間活動です。中でも製造業や運輸、天然ガス利用による排出が大きいとされています。
CO2だけでなくメタンに対しても目標設定をし、実際に削減していくことが求められるでしょう。さらに、目標を立てるだけでなく、モニタリングも重要となってきます。取組結果をモニタリングし、開示することが必要です。
今後重要なのは、実際に温室効果ガス排出量の削減をし、気温上昇を抑えることです。この成果が芳しくないと、今よりもより厳しい目標を求められる可能性があります。あらゆる側面から、より効果的なアプローチで脱炭素に向けた取り組みを行っていく必要があります。また、2020年の企業系・消費者系のCO2排出の比率は8:2*で、製造業を中心とする企業の取り組みだけでなく、生活レベルで取り組みを加速させなければ脱炭素は達成し得ません。市民レベルでもエシカルな消費を加速させ、企業としては環境配慮型商品による付加価値の提供や差別化がさらに重要な位置づけになることが予想されます。
*2019年の製造・発電などの直接排出量を最終需要部門の消費量に応じて配分した間接排出量
企業が取り組むことができる解決策
COP26で世界各国に今までより厳しい排出量削減が求められる中、企業が実際に温室効果ガス排出量削減のためにとれる効果的な対策は何でしょうか。 温室効果ガス削減の解決策は、エネルギー、農業、森林、鉱業、建築、輸送など多くの分野に存在しています。ポール・ホーケン(2021)によれば、気候変動に対する解決策総合ランキングとして、「1位 冷媒、2位 風力発電、3位 食料廃棄の削減」が挙げられています。
1位の冷媒についてみてみますと、冷蔵庫やエアコンの冷媒に従来使われていたCFC、HCFCや、現在の冷媒の主流であるHFCといったフロン類は、温室効果のあるガスです。温室効果ガスとしてよく知られているのは二酸化炭素(CO2)ですが、従来のHFCの温暖化係数は、CO2のおよそ2,000倍になります。
企業は冷媒を用いた機器の使用軽減のためにも、地中熱ヒートポンプの導入や設備の更新などの対策を実施できると考えられます。
3位の食料廃棄については、FAO(国際連合食糧農業機関)の報告書によると、世界では食料生産量の3分の1に当たる約13億トンの食料が毎年廃棄されています。食料廃棄物は可燃ごみとして焼却され、二酸化炭素を排出します。日本でも1年間に約612万トン(2017年度推計値)もの食料が捨てられており、国は事業系食品ロスを、2030年度までに2000年度比で半減するとの目標を立てています。企業は返品・過剰在庫削減といった商習慣の見直しや、需要予測精度の向上、売り切り等さらなる対策が必要となります。そして、食料廃棄については企業だけでなく市民レベルの協力が必要不可欠です。市民による食料廃棄を減らすために、賞味期限は商品の特性に応じて科学的・合理的に設定し、過度に短く表示しないなど取り組み始めている企業もあります。
今後どのような社会を構築すべきか、そのような社会と自社との関連性はどうあるべきか、企業が真剣に考える時代がやってきています。
まとめ
1.COP26では世界の目標としての「1.5度」の強調、継続的な「2030年目標の見直し」、パリ協定「第6条」のルールの最終決定によるカーボンクレジット二重経常問題の解決がなされた。一方で、温室効果ガス削減の実績が伴わなければ、更なるハイレベルな目標や企業への情報開示圧力が強まる可能性がある
2.先進国と途上国の軋轢は未だ解決には至っていないが、今後各国が協力して取り組みを進めなければ目標の達成はできない
3.温室効果ガス削減には、従来の対策のみでは達成することは難しく、多角的な観点で対策を進める必要がある。
【参考文献】
ポール・ホーケン(2021)『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』 山と溪谷社
執筆者:加藤 ひかる
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