SBTiとは?背景や目的、参加方法についてわかりやすく解説
はじめに
SBTiは、企業が科学的に根拠のある環境目標を設定することを支援しているイニシアチブです。パリ協定で示された「世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5°Cに抑える」という目標の達成に向け、SBTiは企業が目標設定の際に使用できる基準を提供しています。企業はこの基準に基づいて目標を設定することで、さまざまなメリットを得ることが可能です。
この記事ではSBTiが設立された背景や目的、SBT認定についてご紹介します。SBTiに参加するための申請手順も解説しますので、ぜひご覧ください。
SBT認定とは?
ここでは、SBTiの概要や設立の背景を整理した上で、SBTiが関わる認証制度である「SBT認定」について解説していきます。
SBTiとは
SBTiとは「Science Based Targets initiative(科学に基づく目標設定イニシアチブ)」の略称です。国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)、CDPによる共同イニシアチブとして2015年に発足しました。
SBTi設立の背景・目的
2015年に採択されたパリ協定において「1.5°C目標」が示されました。この目標は、気候変動による被害を最小限に抑えるためには、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5°Cに抑える必要があることから決定されました。1.5°C目標の達成には、世界全体でCO2排出量をネットゼロ(実質ゼロ)にする必要があり、温室効果ガスの主要排出者である企業が重要な役割を果たします。
この状況を受けて、ネットゼロを実現するための目標を掲げる企業が増えています。しかし企業にとって、具体的にどのような目標を設定すべきか判断するのは容易ではありません。加えて、それまで企業が示していた目標値は共通基準が存在しないなかで独自に算出されていたため、各目標に一貫性がなく、ネットゼロ目標に与える影響が限定的であるという懸念もありました。
こうした問題を解決すべく、企業がパリ協定に沿った目標を定めることを支援する組織「SBTi」が設立されました。SBTiは、企業が科学的知見に基づいた目標を設定できるようにするための基準を提供しています。
SBTiネットゼロ基準とは
SBTiが提供する基準は「ネットゼロ基準」と呼ばれ、この基準を通じて、2050年までにネットゼロを達成するための野心的な目標を策定するよう企業に対して促しています。
SBTiのネットゼロ基準では、企業におけるネットゼロを以下のように定義しています。
- スコープ1、スコープ2、スコープ3をゼロにする、もしくは1.5°C目標に沿った温室効果ガス排出量の削減において、グローバルまたはセクターレベルでのネットゼロ排出達成と整合する程度の残余排出量水準まで削減する。
- ネットゼロ目標の期限に達した時点での残余排出量(削減しきれない温室効果ガスの排出量)、およびそれ以降に大気中に放出されるすべての温室効果ガスを中和する。
上記にあるスコープ1とは、事業者自らによる温室効果ガスの直接排出のことで、燃料の燃焼や工業プロセスがその例です。スコープ2は他社から供給された電気や、熱・蒸気の使用に伴う間接排出を指します。スコープ3はスコープ1・2以外の排出のことで、事業者の活動に関連する他社の排出などが例として挙げられます。
図 スコープ1・2・3のイメージ
また、SBTiのネットゼロ基準では、企業が設定するネットゼロ目標に以下4つの要素を含めるよう求めています。
1.短期的なSBTの設定
SBTとは「Science Based Targets(科学的根拠に基づく目標)」の略称で、パリ協定に基づいて設定された温室効果ガス排出削減目標を指します。この要素では、1.5°C目標に沿った5〜10年間の温室効果ガス排出削減目標を設定する必要があります。
2.長期的なSBTの設定
2018年のIPCC報告書で気温上昇を産業革命前と比べて1.5°Cまでに抑え、2050年までにネットゼロを達成する必要があることが警告されました。1.5℃目標に沿ってネットゼロを達成するために、バリューチェーン排出量をどれだけ削減しなければならないか、目標を定める必要があります。
3.バリューチェーンを超えた緩和
自社のバリューチェーンを超えた、温室効果ガス排出量を回避あるいは削減するための投資などの行動を指します。自社のバリューチェーンにおける排出量を直接的に削減する取り組みではありませんが、1.5°C目標の達成に貢献することにつながります。
4.ネットゼロにするための残余排出の中和
企業は長期的なSBTを通じて、少なくとも90%の温室効果ガスの排出削減を行う必要がありますが、どうしても削減しきれない残余排出量が発生する可能性があります。残余排出量については、その影響を相殺するために大気中から炭素を除去し、永続的に貯蔵する必要があります。
SBT認定はSBTiが与える認証
SBTiは、企業が設定したSBT(Science Based Targets:科学的根拠に基づく目標)を評価しており、妥当性のある目標だと判断した企業に対して「SBT認定」を与えています。SBT認定を受けるためには、所定の審査を通過する必要があります。
(出典)
WWFジャパン | Science Based Targetsイニシアティブ(SBTi)とは
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SBTiに参加する3つのメリット
SBTiに参加してSBTを設定することで、「投資家」「顧客」「サプライヤー」の3方向において、以下のようなメリットが得られます。
- 【対投資家】ESG投資の呼び込み
- 【対顧客】ビジネス展開におけるリスク低減や機会獲得
- 【対サプライヤー】サプライチェーンの調達リスク低減やイノベーション促進
それぞれについて簡潔に解説いたします。
【対投資家】ESG投資の呼び込み
投資家は中長期的なリターンを得るため、投資対象を選ぶ際、企業のESG(環境、社会、ガバナンス)や持続可能性を重視する傾向にあります。
企業がSBTiに参加することで持続可能性をアピールできるほか、SBT設定によって「パリ協定と整合した目標を設定している企業である」と証明できます。その結果、ESG投資の呼び込みにつながるでしょう。
【対顧客】ビジネス展開におけるリスク低減や機会獲得
調達元へのリスク意識が高い顧客は、サプライヤーに対して野心的な目標や取り組みを求めることがあります。これは、SBT認定を受けた企業はスコープ3の削減目標も設定する必要があり、それらの企業の中には、サプライヤーに対してSBTを設定させることを掲げる企業も存在するからです。
SBT設定によって、そうしたリスク意識の高い顧客の声に応えることになり、自社のビジネス展開におけるリスクの低減や機会の獲得につながるでしょう。
【対サプライヤー】サプライチェーンの調達リスク低減やイノベーション促進
サプライヤーが環境への取り組みを行わなければ、ハリケーンや豪雨、土砂災害、水不足、海面上昇など気候変動を起因とする物理的リスクが生じるだけでなく、自社の評判が下がったり排出規制によってコストが増えるなど、サプライチェーンにおいてさまざまなリスクが生じます。
SBTではサプライチェーン全体の目標を設定する必要があり、目標設定をきっかけに、サプライヤーに対して環境への取り組みを働きかけることが可能です。SBTで設定した具体的な削減目標をサプライヤーに対して示すことで、サプライチェーンの調達リスクの低減やイノベーションの促進につながるでしょう。
(出典)
SBTiへの参加方法と申請手順
SBTiに参加できる組織は多岐にわたり、一般企業のほか、金融機関や合弁会社、協同組合、国有企業なども参加できます。2024年4月時点で、SBTiに参加する企業は世界全体で8,000社近く存在し、そのうち日本企業はおよそ1,100社です。
SBTiに参加するための申請手順は、大企業と中小企業のどちらに該当するかによって異なります。なお、SBTiでは、中小企業は「従業員が250人未満」が1つの条件になっています(2024年5月時点)。
大企業の場合
大企業は以下の手順で申請を進めていきます。
1.コミットメント
標準コミットメント・レターに企業情報や連絡先などを記載し、SBTi事務局に提出します。これにより、2年以内のSBT設定を約束することになります。
なお、コミットメントは任意です。コミットメントを行った場合は、SBTiのWebサイトに企業名が公表されます。
2.目標提出フォームの作成
SBTiのネットゼロ基準に基づいて排出削減目標を設定したら、「目標提出フォーム(Target Submission Form)」に、直近年の温室効果ガス排出量情報や削減目標を記入して提出します。同時に、目標の妥当性確認審査の予約も行います。
3.SBTi事務局による妥当性確認審査
SBTi事務局は認定基準への該否を審査し、メールで回答します。否定の場合は理由も示されます。審査費用として4,950米ドル(外税)が必要となり、この費用を支払うと最大2回の評価を受けることが可能です。
4.SBTiのWebサイトなどでの公表
認定されると、SBTiのWebサイトなどで企業名および設定した目標が公表されます。審査後は、温室効果ガス排出量と対策の進捗状況を年1回報告し、開示する必要があります。
中小企業の場合
中小企業は大企業のサプライヤーであることが多く、世界的な気候変動対策において果たす重要な役割と認識されています。しかしながら、この規模の企業が気候変動対策において利用できるリソースは限られているため、中小企業として簡易な方式での申請が可能となっています。
この方式では大企業のように標準コミットメント・レターを提出する必要がなく、その代わりに、中小企業専用に設計された「中小企業向け科学に基づく目標設定フォーム」を提出します。申請の具体的な流れは以下のとおりです。
1.目標設定フォームへの記入
企業情報の詳細を「中小企業向け科学に基づく目標設定フォーム」に記入します。フォームで目標の選択肢を1つ選んだら、排出プロファイルの項目を入力し、連絡先の詳細を入力してフォームを送信します。
2.契約書への署名と手数料の支払い
デューデリジェンス(調査)に通過したあと送付される契約書に署名し、手数料として1,000米ドル(外税)を支払います。
3.SBTiのWebサイトなどでの公表
目標設定フォームを提出し、料金の支払いが完了すると、SBTiのWebサイトなどでSBT認定されたことが示されます。これ以降、SBTiのロゴを自社のWebサイトなどで使用することが可能になります。
(出典)
最後に
- SBTiは「Science Based Targets initiative(科学的に根拠のある目標イニシアチブ)」の略称で、2015年に発足した。
- SBTiは1.5°C目標の達成に向け、企業が科学的知見に基づいて目標を設定するための基準を提供している。
- 企業が設定したSBT(Science Based Targets:科学的根拠に基づく目標)が、SBTiによって妥当性があると判断されるとSBT認定を取得できる。
- SBTiに参加することで「投資家」「顧客」「サプライヤー」の3方向においてメリットを得られる。
- SBTiに参加するための申請手順は、大企業と中小企業で異なる。
当社では、SBTiに参加するための申請手続きやSBT認定のサポートを行っております。
「SBTiへの参加を検討しているが、具体的に何から始めたら良いか分からない」といった不安をお持ちのお客様も、当社がサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。
執筆者:霜山竣、中野晴康
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