SBTiとは? 背景・目的・ネットゼロ認定の申請方法&費用まで徹底解説

SBTiは、企業が科学的に根拠のある環境目標を設定することを支援しているイニシアチブです。パリ協定で示された「世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5°Cに抑える」という目標の達成に向け、SBTiは企業向けの目標設定ガイダンスを提供しています。
SBTiから認定を受けることで、企業はさまざまなメリットを得られます。
この記事ではSBTiが設立された背景や目的、SBTiから認定を受ける手順を解説しますので、申請を検討している方はぜひご覧ください。
SBTiとは
まずはSBTiの概要や設立の背景を整理し、SBTiによる「SBT認定」制度について解説します。
SBTiとは
SBTiとは「Science Based Targets initiative(科学に基づく目標設定イニシアチブ)」の略称で、読み方は「エスビーティーアイ」です。国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)、CDPによる共同イニシアチブとして2015年に発足しました(UN Global Compact Network Italia 2026)。
SBTi設立の背景と目的
SBTiの設立には、2015年に採択されたパリ協定が深く関わっています。
気候変動による被害を最小限に抑えるには、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5°Cに抑える必要があることから、パリ協定において「1.5℃目標」が決定されました。1.5°C目標の達成には、世界全体でGHG排出量をネットゼロ(実質ゼロ)にする必要があり、GHGの主要排出者である企業が重要な役割を果たします。
パリ協定の採択を受けて、ネットゼロを実現するための目標を掲げる企業が増えています。しかし企業にとって、具体的にどのような目標を設定すべきか判断するのは容易ではありません。加えて、それまで企業が示していた目標値は共通基準が存在しないなかで独自に算出されていたため、各目標に一貫性がなく、ネットゼロ目標に与える影響が限定的だという懸念もありました。
こうした問題を解決すべく、パリ協定に沿った目標設定を支援するために設立されたのがSBTiです。SBTiは、企業が科学的知見に基づいた目標を設定するためのガイダンスを提供しています(SBTi 2026)。
しかし2024年にはすでに、世界の平均気温の上昇が1.5℃を越えてしまいました(EU Space Policy 2025)。単年での超過がただちに1.5℃目標の失敗を意味するわけではありませんが、企業を含む世界全体での早急な排出削減の重要性が浮き彫りになっているといえるでしょう。
企業がネットゼロ経路で定義されたレベルまでGHG排出量を削減し、残余排出量(※)を相殺し、目標年およびそれ以降もこのバランスを達成・維持している状態
※ 削減しきれないGHG排出量
SBTiの企業ネットゼロ基準では、企業のネットゼロ目標を構成する重要な要素として、以下の4つを挙げています(SBTi 2026)。
- 短期のSBT
- 長期のSBT
- 残余排出量の相殺
- バリューチェーンを越えた緩和(BVCM)
短期のSBT
SBTとは「Science Based Targets(科学的根拠に基づく目標)」の略称で、1.5℃目標に整合するGHG排出削減目標です。企業ネットゼロ基準では、5〜10年間を期間とした短期の削減目標を設定し、期間の終了が近づいたら更新する必要があります。
長期のSBT
短期のSBTに加え、長期のSBTも必要です。1.5℃目標に整合する基準までGHG排出量を抑えられるよう長期の削減目標を設定し、2050年までに達成することが求められます。
残余排出量の相殺
事業を行う以上、企業活動においてGHG排出を一切行わないのは困難です。長期のSBTを達成した際の残余排出量については、大気中から炭素を永久に除去・貯蔵することでの相殺が求められます。長期のSBT達成および残余排出量の相殺を両方行うことで、初めてネットゼロを宣言できます。
バリューチェーンを越えた緩和(BVCM)
SBTにおける排出量削減は、バリューチェーン上のGHG排出であるScope1,2,3が対象ですが、ネットゼロ基準ではバリューチェーン外でもGHG削減に取り組むよう求めています。それが「バリューチェーンを越えた緩和(Beyond Value Chain Mitigation: BVCM)」です。BVCMの目標設定や進め方については「BVCMレポート概要(日本語版)」で確認できます。
SBT認定はSBTiの審査を通過した証
SBTiは、企業が設定したSBTを評価し、妥当性があると判断した目標に「SBT認定」を与えています。SBT認定を受けるためには、所定の審査を通過する必要があります。
SBTとSBTiの違いは次のとおりです。
- SBT(Science Based Target):パリ協定に整合した、科学的根拠に基づくGHG削減目標
- SBTi(Science Based Targets initiative):SBTの設定を推進し、認定を行う組織
SBTiに認定を申請する4つのメリット
SBTを設定してSBTiに認定を申請することで、以下をはじめとするメリットが得られます。
- 対投資家:ESG投資の呼び込み
- 対顧客:取引先の維持・獲得
- 対サプライヤー:Scope3の削減
- 対法定開示:SSBJ基準への対応
対投資家:ESG投資の呼び込み
投資家は中長期的なリターンを得るため、投資対象を選ぶ際、企業のESG(環境、社会、ガバナンス)や持続可能性を重視する傾向にあります。
SBTiが認定企業に対し2025年に行った調査(有効回答数171)では、SBT認定が投資家との関係に与えた影響について「非常にポジティブ」との回答が25%、「ややポジティブ」が55%と、8割もの企業が好意的にとらえています。一方、「ネガティブ」と回答した企業は0%でした(SBTi 2025)。
SBTの取得によって、カーボンニュートラルの実現に意欲的な企業であると示すことができ、ESG投資の機会を得やすくなると考えられます。
対顧客:取引先の維持・獲得
GHGの削減意欲が強い企業は、サプライヤーに対しても野心的な目標や取り組みを求めることがあります。これは、SBT認定を受けた企業はScope3の削減目標も設定する必要があり、Scope3の排出量を削減するには、取引先にも排出量を減らしてもらう必要があるためです。
SBT認定によって、そうした要請に応えることになり、取引先の維持や新規獲得につながるでしょう。上述の調査でも、サプライヤーとしての評価にSBT認定が与えた影響として「非常にポジティブ」が22%、「ややポジティブ」が47%で、「ネガティブ」との回答はありませんでした。
対サプライヤー:Scope3の削減
SBT認定は、サプライヤーにGHG削減を働きかけるきっかけにもなります。
SBT認定を受けるには、サプライチェーン全体での排出量削減目標を設定する必要があるため、サプライヤーに対して排出量削減を働きかけることにもなります。サプライヤーが環境への取り組みを行わなければ、 Scope3を削減できず、GHG全体における削減目標の達成が困難です。
自社でSBT認定を取得し、サプライヤーにも排出量削減やSBT認定取得を働きかけることで、自社のScope3削減につながります。実際、SBTiの目標ダッシュボードで確認すると、「サプライヤーの90%がSBT認定を取得した状態にする」ことを目標に定めた日本企業も見られます。
対法定開示:SSBJ基準への対応
2025年3月にサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が公表したSSBJ基準によって、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示が始まります。金融庁は、東証プライム市場上場企業のうち時価総額3兆円以上を2027年3月期、3兆円未満1兆円以上を2028年3月期、1兆円未満5,000億円以上を2029年3月期から適用対象とする方針を示しています(金融庁 2026)。
SSBJのテーマ別基準第2号「気候関連開示基準」は、GHGプロトコルに準拠したScope1〜3の排出量に加えて、目標の目的や、最新の国際協定を目標にどう反映したか、目標と目標設定の方法論が第三者に認証されているかどうかまで開示を求めています(第47項・第49項・第92項・第94項)。SBT認定は、パリ協定と整合する目標をSBTiが確認する仕組みであるため、これらの開示項目にそのまま答えられます。
つまり、SBT認定に向けたGHG排出量の算定、目標設定、年次の進捗報告は、そのままSSBJ基準への対応の土台になるのです。SSBJ基準は目標の設定や、目標に対する第三者認証の取得までを義務付けているわけではありませんが(同 BC206・BC210)、目標を掲げる以上は裏付けの説明が求められるため、SBT認定は有力な選択肢といえます。
SSBJ基準について詳しくは「【2026年最新版】SSBJ基準はいつから義務化? 『日本初』サステナビリティ開示基準を解説」をご覧ください。
SBTi認定を受ける方法と申請手順
SBTiに申請してSBT認定を受けた企業は2026年9月9日時点で11,911社あり、日本企業は2,551社と、国別で世界最多です(SBTi 2026)。
SBTiへの申請手順には、一般のルートと中小企業向けのルートがあります。SBTiにおける「中小企業」は、以下に挙げる4つの条件すべてに当てはまることが必要です(SBTi Services 2026)
- Scope1と2(ロケーション基準)の合計がCO2換算で10,000トン未満である
- 事業を合算したグループ全体で一般ルートの対象となる企業の子会社ではない
- 金融機関セクター、石油・ガスセクターではない
- セクター別要件の適用が求められていない
さらに、以下の4つのうち3つ以上に該当する必要があります。
- 従業員総数が250人未満である
- 年間総売上高が5,000万ユーロ未満である
- 総資産が2,500万ユーロ未満である
- FLAGセクターではない
FLAGセクターのSBTi申請については「SBTi-FLAG目標とは? 日本企業の認定事例も紹介!」をご覧ください。
一般の手順
SBTiへの申請プロセスは、6つのステップで構成されています(SBTi Services 2026)。
1. 登録
SBTiのWebサイトに登録して、アカウントを作成します。企業の情報を登録することで、一般の手順で申請するか、中小企業向けの手順も選択できるかが判断されます。
2. コミットメント(任意)
SBTiのWebサイト上で「コミットメント遵守ポリシー」および「コミットメントと目標ステータス」の文書を確認し、同意します。同意の送信が確認されたあと、SBTiへの登録者一覧である「目標ダッシュボード」上で企業名が公開され、「COMMITTED」というステータスが表示されます。
コミットメント後は、24カ月以内に目標を設定・提出しなければなりません。
3. 目標設定
GHGプロトコルの基準に基づき、Scope1,2,3のGHGインベントリを作成します。そのうえで、SBTiの各種ガイダンスを参照して排出削減目標を設定します。
4. 提出
SBTiのWebサイト上で排出削減目標を入力し、関連資料とあわせて送信します。送信からおよそ2週間以内に審査費用の請求書がメールで送信されるので、請求書発行日から30日以内に支払います。短期目標と長期目標の両方でSBTiによる審査を受ける場合の費用は、年間売上高に応じて1万7,000~3万4,000米ドルです(SBTi Services 2025)。
5. 公表
SBTi事務局によって目標が認定されると、ダッシュボード上のステータスが「TARGETS SET」に変わります。企業は、認定を受けてから6カ月以内に、プレスリリースやサステナビリティレポートなどの手段で目標を公開しなければなりません。
中小企業向けの手順
中小企業は大企業のサプライヤーであることが多く、世界的な気候変動対策において重要な役割を果たすと認識されています。しかし、この規模の企業のリソースは限られているため、より簡易な手順での申請を選択することが可能です。
1. 登録
SBTiのWebサイトに登録して、アカウントを作成します。
2. 目標設定
GHGプロトコルの基準に基づき、Scope1,2,3のGHGインベントリを作成したうえで、排出削減目標を設定します。中小企業向けの目標設定には、4つの選択肢があります(SBTi Services 2026)。
- 短期の削減目標のみ
- ネットゼロ目標のみ
- 短期の削減目標とネットゼロ目標の両方
- 短期の維持目標(Scope1もしくは2、あるいは両方の排出量を0に保つ)
3. 提出
排出削減目標と関連資料を提出します。中小企業の審査費用は1,250~3,500米ドルです。
4. 公表
SBTi事務局によって目標が認定されると、ダッシュボード上に社名と、中小企業として目標設定を行った旨が表示されます。2026年9月9日現在、日本企業では2,136社です。
5. 開示
一般の手順と同様、目標達成に向けてGHG排出量を毎年開示します。
SBTiによる認定はメリットが多い
この記事では、SBTiとは何か、認定を受けるにはどうすればよいのかを紹介しました。要点を振り返ってみましょう。
- SBTiは「Science Based Targets initiative(科学的に根拠のある目標イニシアチブ)」の略称で、2015年に発足した
- SBTiは1.5°C目標の達成に向け、企業が科学的知見に基づいて目標を設定するための基準を提供している
- 企業が設定したSBT(Science Based Targets:科学的根拠に基づく目標)が、SBTiによって妥当性があると判断されるとSBT認定を取得できる
- SBTiに申請することで「投資家」「顧客」「サプライヤー」「SSBJ対応」の4方向においてメリットを得られる
- SBTiへの申請手順は、一般と中小企業で異なる
当社では、SBTiへの申請手続きやSBT認定のサポートを行っております。「SBTiへの申請を検討しているが、具体的に何から始めたらいいかわからない」といった不安をお持ちのお客さまも、当社がサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。
執筆者:霜山 竣、中野 晴康



