SBTは必要か?中小企業が認定を受けるメリット・プロセスを紹介、認定支援活用もおすすめ

はじめに
近年、日本ではゲリラ豪雨や大型台風が発生するなど、気候変動による自然災害が増加傾向にあります。また日本だけではなく、世界各国で自然災害が起こっており、世界的に深刻な問題です。気候変動の原因は地球の温暖化といわれており、何も対策をしなければさらなる気温上昇が予想できます。そのためSBTをもとに、温室効果ガスの排出を抑制する取り組みを行う企業もあります。そこで今回はSBTとは何か、支援を受けて中小企業がSBTの認定を受けるメリットや導入する場合のプロセスなどを紹介します。

通常のSBTと中小企業向けSBTとの違い

まずは通常のSBTがどういうものなのか、また中小企業向けSBTとの違いについて見ていきましょう。

SBTとは?

SBTとは「Science Based Targets」の略で、科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標のことです。

 

科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標

出典:環境省 | SBT(Science Based Targets)について

 

2015年に国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が行われ、パリ協定が採択されました。このパリ協定の水準に合わせて企業が設定する温室効果ガス排出削減目標をSBTといいます。

 

パリ協定において、世界の気温上昇を産業革命前より2度下げることを目標に掲げ、努力目標として1.5度以内にすることを話し合いました。目標を達成するためには一人ひとりの取り組みも大切ですが、企業単位の取り組みも必須です。

 

そこでSBTを設け、パリ協定に賛同する企業が温室効果ガス排出削減に取り組む際に、5年から15年先を目標達成時期として定めました。

中小企業向けSBTとは

中小企業向けSBTとは、大企業のサプライヤーとして重要度が増す一方で、取り組みに十分な資金的余裕を見いだせない中小企業の目標設定に対して通常より条件を緩和し、取り組みやすくしたSBTのことです。

 

中小企業向けSBTにおける中小企業の定義は以下のとおりで、すべての条件を満たさなければなりません。

 

  • Scope1(事業者が直接排出する分)とロケーションベースのScope2(供給を受けた電気など間接的に排出する分)の排出量が10,000tCO2e未満
  • 金融機関または石油・ガスセクターに分類されない
  • 海運船舶を所有・管理していない
  • 再生可能エネルギー以外の発電資産を所有・管理していない
  • 親会社の子会社で、親会社の事業が標準的な検証ルートに該当しない

 

かつ、以下の条件を3つ以上満たす必要があります。

 

  • 従業員数250人未満
  • 売上高5,000万ユーロ未満
  • 総資産2,500万ユーロ未満
  • 森林や土地利用事業者ではない

 

SBT認定で削減対象としている排出源はScope3(1、2以外の間接排出分)を含めてすべてですが、中小企業向けSBTの認定においては、削減対象の排出源は、Scope1とScope2のみが対象です。また、企業向けSBTではSBT事務局から目標の審査を受けますが、中小企業向けSBTでは事務局が審査することはありません。

 

そのため、SBT認定取得に多くの財源や時間を割けない中小企業でも取り組みやすくなっているのです。

 

※いずれも2024年4月現在の情報です。

 

 

(出典)
朝日新聞社|パリ協定とは?
環境省|脱炭素経営で未来を拓こう
独立行政法人 中小企業基盤整備機構|カーボンニュートラルを目指すSBTには中小企業も参加できますか。

SBT認定取得に取り組むメリット

SBT認定を取得するとどういったメリットがあるのでしょうか?主なメリットは5つです。

 

環境問題に取り組める

温暖化は、地球規模で考えなければならない問題の1つです。このまま気温が上昇すると、異常気象の増加や環境の変化が起こり、生物の存続にも影響を及ぼします。
SBTを達成するということは、環境問題に積極的に取り組んでいる証拠となり、企業として環境保全に貢献できるます。

企業の認知度を高めてアピールできる

SBT認定を受け、メディアへの掲載や自治体からの表彰された場合、脱炭素経営を行う持続可能な企業であることをアピールできます。これによって顧客や投資家に自社の魅力を伝えられ、他社との差別化を図れます。

コストの見直しができる

SBT認定を受けるには温室効果ガスの排出削減目標を達成しなければならないため、現状のエネルギー消費量を見直す必要があります。

その方法として、省エネに優れた環境設備を導入したり、再生可能エネルギーを導入して自社でエネルギーを創出したりしなければなりません。

つまり、作業の効率化やエネルギー消費の大きい設備の入れ替えなどによって、企業のコストダウンが図れる場合もあります。

新しいアイデアが生まれる

SBT認定のために作業を効率化するうえで、作業工程を見直すだけではなく、その必要性から新たな技術が生まれることもあります。また作業の効率化によって、商品開発の時間ができたり新しいアイデアが生まれたりすることもあるでしょう。

その他にも、従業員の発想やモチベーションを高めるというメリットも考えられます。

資金調達しやすくなる

昨今、金融機関では環境や社会に配慮した取り組みをしている企業に投資する動きがあり、融資条件の優遇を受けられることもあります。SBT認定によって、資金調達手段を増やすことにもつながるでしょう。

 

(出典)
環境省|温室効果ガス排出削減等指針に沿った取組のすすめ~中小事業者版~脱炭素化に向けた取組実践ガイドブック(入門編)

SBT認定取得企業

世界におけるSBT認定取得・もしくは取得をコミットした企業は5,000社を超え、そのうち日本企業は500社を超えています。世界的には食料品や金融・保険業の企業が多く、日本では電気機器や建設業が多いです。

 

例えば、大企業では住友林業や大成建設、味の素、日清食品ホールディングスなどがあげられます。中小企業では、アークエルテクノロジーズや大川印刷、エコワークス、アサヒ繊維工業などが認定を受けています。

 

今後もSBT認定に興味を持つ企業は増える。SBTは国際的な取り組みであり、日本でも参加するメリットは大きいでしょう。

 

(出典)
WWFジャパン|SBT認定・コミットする日本企業が500社を超える!
環境省|SBTに参加する日本企業の認定数が更に増加、他

SBT認定までのプロセス

SBT認定を受けるには手続きが必要です。手続きの主な流れは以下のとおりです。

 

1 SBT事務局にコミットメントレターを提出

2 企業が目標を設定する

3 設定した目標をSBT事務局に提出

4 SBT事務局の専門チームによって審査を受ける

5 審査を通過すればSBT認定取得、Webサイトで公表

※中小企業向けSBTは事務局による審査はなく、目標を提出すると自動で承認

 

SBT認定を受けた企業は、温室効果ガスの排出量を毎年開示し、目標達成の進捗状況を報告・開示する必要があります。

 

今後はサプライチェーン上の取り組みとしてSBT認定が必要になるケースが増える可能性もあります。自社での申請が困難な場合は、認定支援サービスの活用を視野に入れるのも1つの方法です。

 

(出典)
環境省|中長期排出削減目標等設定マニュアル~サプライチェーン排出量(Scope1,2,3)算定、SBT、RE100等への取組に向けて~

まとめ

  • SBTとは、パリ協定の水準に合わせて企業が掲げる温室効果ガス排出削減目標のこと
  • SBTには通常のSBTと中小企業向けSBTがあり、大企業だけではなく中小企業でも導入し始めている
  • SBT認定を受けると、「環境問題に取り組める」、「企業の認知度を高めてアピールできる」、「コストの見直しができる」、「新しいアイデアが生まれる」、「資金調達しやすくなる」などのメリットがある
  • 世界におけるSBT認定取得・コミット中の企業は5,000社を超え、そのうち日本企業は500社を超えている

 

当社では、SBT認定やCDP回答に伴う支援などを行っています。SBT認定に興味を持たれている企業さまはお気軽にご相談ください。

 

執筆者:霜山竣、中野晴康

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