カーボンクレジット市場とは?必要となった背景や仕組み、種類について解説
温室効果ガス(以下、GHG)の排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を実現するために、金融面からの取り組みも進んでいます。その取り組みの1つに、「カーボンクレジット市場」があります。
今回は、このカーボンクレジットとその市場に注目して解説します。主なカーボンクレジットの種類や、東証のカーボンクレジット市場とはどういうものなのか、カーボンクレジット市場ができた背景や仕組みなどを見ていきましょう。
カーボンクレジットとは?
カーボンクレジットは炭素クレジットとも呼ばれ、「二酸化炭素やフロンガスなどのGHG排出量を売買する仕組み」のことです。
内閣府によると近年、地球温暖化によって世界各国で気象災害が増加※1しているといわれており、日本でもゲリラ豪雨や巨大台風が発生するなど、事態は深刻です。そこで地球温暖化を抑え、持続可能な経済社会を構築するために、カーボンニュートラルへの取り組みが進められています。
国内では2020年に当時の菅総理大臣が提唱し、2050年までにカーボンニュートラルを目指す宣言を行いました。カーボンニュートラルは、二酸化炭素だけでなく一酸化二窒素やメタン、フロンガスなどを対象にし、排出量から吸収量や除去量を引いた合計がゼロになることを目標としています。
しかし、企業によっては努力をしても残存するどうしても減らせない排出量がありえます。そこでカーボンクレジット購入によって埋め合わせができるようにしています。
カーボンクレジットはSDGs(持続可能な開発目標)の目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」につながる取り組みでもあります。SDGsの達成すべき17の目標は、2015年に国連総会で採択されました。目標7では、誰もが安価で安定的にエネルギーを使えるようにすることや、再生可能エネルギーを使う割合を増やす取り組みなどを推奨しています。
カーボンクレジット市場とは?
カーボンクレジット市場とは、カーボンニュートラルを達成するための金融取引を可能にした市場のことを指します。どうしても必要な排出量をゼロにできない企業にとっての代替策として活用される一方で、排出量の吸収や削減能力に優れた企業にとっては新たなビジネス機会として注目される市場です。
カーボンクレジット市場の始まりと世界のカーボンクレジット
日本では2023年10月、東京証券取引所にてカーボンクレジット市場が開設されました。2023年度から試行取引が行われており、2026年度より本格稼働を予定しています。現在の取引では、政府主導で発行されるJ-クレジットと呼ばれるカーボンクレジットが対象です。
世界に目を向けると、J-クレジットのような政府主導のものと、民間企業が取り仕切るボランタリークレジットの2種類があり、今後も拡大していくことが予想されます。
カーボンクレジット市場が必要となった背景
カーボンクレジット市場が必要となった背景の1つには、政府が進めるGX(グリーントランスフォーメーション)があります。GXとは、GHG排出削減への取り組みを企業が成長する機会とし、これまでの経済社会システムの変革を促すことです。
また、カーボンクレジット市場を活用することで、GHG排出量削減や、排出削減のための投資を企業が前倒しして行うことを促し、そうした企業の負担を軽減することを目的にしています。
企業の目線で考えると、カーボンクレジットを売却すれば利益を得られ、GHG排出削減のためにさらなる設備投資が可能になるでしょう。一方でGHG排出削減が難しい企業は、カーボンクレジットの購入によってカーボンニュートラルへの取り組みに貢献できるというわけです。
しかし日本のカーボンクレジット市場はまだまだ始まったばかりです。クレジット量や価格設定など、市場の動向がわかりにくい側面もあります。また、専門的な知識が必要なことが多く、企業が効率的にカーボンクレジットに取り組むためには、手間やコストの増加も慎重に見極めていく必要があります。
カーボンクレジットの仕組みや種類
ここからは、カーボンクレジットの基本的な仕組みや種類を紹介します。
カーボンクレジットの仕組み
基本的な仕組みでは、自治体や企業などが省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるGHG排出削減量や、適切な森林管理によるCO₂吸収量をクレジットとして販売できます。これに対し、排出目標を超えてしまっている企業などがクレジットを購入することで、超えた排出量を相殺できるというものです。
環境省「J-クレジット制度及びカーボン・オフセットについて」
(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/mechanism/carbon_offset.html)
現在日本で行われているカーボンクレジット市場では、J-クレジットが利用されています。J-クレジットとは、再生可能エネルギー発電などを導入することで削減できた二酸化炭素の排出量や、森林管理による二酸化炭素の吸収量を国が数値化したものです。
なお、カーボンクレジットには2種類の考え方があります。
経済産業省「カーボン・クレジット・レポートの概要」
(https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/carbon_credit/pdf/004_s04_00.pdf)
1つ目はベースライン&クレジット制度で、予定していた排出量よりも実際の排出量が下回った場合に、下回った分を市場で取引する考え方です。
2つ目はキャップ&トレード制度で、排出権の取引をするというものです。予定の排出枠よりも排出量が下回った場合、その余った分をクレジットとして売却し、排出量を超えている企業が購入するというものです。
日本で取引できるカーボンクレジットの種類
日本で取引できるカーボンクレジットには、主にJ-クレジットと地域版J-クレジット制度があります。J-クレジットは前述したように国が主体となって行い、ベースライン&クレジット制度による取引を行います。
地域版J-クレジット制度は、承認を受けた地方公共団体が運営する制度です。2024年9月現在は新潟県と高知県で行われています。
(出典)
経済産業省|地域版 J-クレジット制度
これまでのカーボンクレジット市場での取引方法との違い
2023年からカーボンクレジット市場での取引ができるようになりましたが、以前の取引はどうしていたのでしょうか?
これまでは相対取引と入札販売の2パターンがありました。相対取引にはJ-クレジットプロバイダーなどの仲介業者を介して売買する方法と、J-クレジット制度のホームページを利用して企業間で直接取引する方法があり、仲介業者を通して6カ月以上取引が成立しなければ、入札販売へ進みます。相対取引の場合は取引先とのやりとりが必要なため、契約書の作成などに時間を要する場合がありました。
また、相対取引では取引参加者でなければ価格の相場がわからず、新規参入しにくいというデメリットがあり、取引量が少ないために流動性が低くなりやすい点も注意が必要な点です。
現在はこれまでの方法に加え、東京証券取引所での取引が可能になりました。この場合、価格は公示されます。透明性が増したことで新たな参入がしやすくなり、取引が活発になることが期待されています。また、約定から最短6営業日で決済が可能な点も大きな変化です。
(出典)
Jークレジット制度ホームページ
カーボンクレジット市場の今後
今のところカーボンクレジット市場で取引できるものは、J-クレジットのみです。しかし今後は、途上国への技術普及によって削減できた排出量を評価して自国の排出量削減につなげる「二国間クレジット」などの別のクレジット導入も検討される可能性があります。世界的には取引量が増加傾向にあり、活発に取引されているため、日本においても取引は拡大傾向にあるといえるでしょう。
ただし、日本ではカーボンクレジット市場を取り巻く法整備や、排出目標達成のインセンティブ制度などの仕組み作りには課題があります。これまでの相対取引や入札販売と比べると、カーボンクレジット市場での取引は透明性の高いものになっています。しかし、どのくらいの価格を希望する人が多いのかなどを判断する気配値がわからないなど、まだまだ改善点もあるといえるでしょう。
また、今後は企業だけでなく、個人レベルでのカーボンクレジット取引が拡大する可能性も考えられます。
まとめ
- カーボンクレジットは、省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるGHG排出削減量や、適切な森林管理によるCO₂吸収量を売買する仕組みのこと。
- 日本では2050年までにカーボンニュートラルを目指すために、カーボンクレジット市場を開設。
- カーボンクレジット市場の開設目的は、GHG排出量削減や排出削減のための投資を企業が前倒しで行い、先行して取り組む企業の負担を軽減すること。
カーボン・クレジット市場を取り巻く環境には改善点もありますが、カーボンニュートラルの実現には欠かせない制度となるでしょう。当社には、カーボンクレジットの専門家が在籍しております。今後カーボンクレジット市場への参入を検討している方は、ぜひご相談ください。
執筆者:霜山竣、中野晴康
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