企業の気候変動対策|国内・海外8社の取り組み事例を紹介

ここ数十年で気候変動は大きく進行しています。事業活動に与える影響やリスクの増大も懸念されるため、世界中の企業が気候変動対策を強化しています。

この記事では、企業が気候変動問題に取り組む重要性や、気候変動対策を積極的に推進している国内・海外の企業8社の事例を紹介します。自社の気候変動対策を検討する際の参考にしてください。

企業が気候変動問題に取り組む重要性

 

気候変動が事業活動に与える影響は年々拡大しています。企業の持続可能性にも直結する問題であるため、気候変動対策を経営の重要課題ととらえて着実に推進することが求められています。

気候変動とは

そもそも気候変動とは、地球上の気温や気象パターンが数十年以上の長期にわたって変化する現象のことです。地球はその長い歴史のなかで寒冷化や温暖化を繰り返してきましたが、現在生じている気候変動は、約2万年前と比べて約10倍ものスピードで進行していることがわかっています。

 

いま問題になっている気候変動の主な要因は、産業革命以降に人間の経済活動で排出される温室効果ガス(CO₂など)だと考えられています。過去100年で世界の平均気温は0.76度上昇、日本の平均気温は1.35度上昇しており、異常気象や海面水位の上昇など、さまざまな影響が現れています。

気候変動が企業に及ぼす影響

2017年6月に公表されたTCFD提言では、気候変動がこのまま進行した場合に企業が直面するリスクとして「物理的リスク」と「移行リスク」を挙げています。物理的リスクとは、気候変動に伴う異常気象や自然災害が直接的に事業活動にもたらすリスクのことで、移行リスクは企業などが脱炭素社会へ移行するプロセスにおいて生じるさまざまなリスクを指します。

 

リスクの具体例は下図のとおりです。気候変動に適切な対策を打たなければ、生産能力の低下やコスト上昇に伴う財務状況の悪化などが懸念されます。また、市場からの評価や競争力の低下を招く可能性も高まるでしょう。

 

出典:環境省「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド ver3.0 ~」

気候変動対策は「緩和」と「適応」に大別される

気候変動対策は、温室効果ガスの排出量を削減する「緩和」と、気候変動に伴う影響を回避・軽減する「適応」の2つに大別されます。気候変動に伴うリスクを低減するためには、どちらか一方ではなく、緩和策と適応策の両方に取り組むことが有効とされています。

 

<対策の具体例>

 

緩和策

  • 節電・省エネルギー対策の推進
  • 再生可能エネルギーの利用
  • エコカーの普及
  • 森林の保全・保護、植林
  • 3Rの推進(Reduce・Reuse・Recycle)

 

適応策

  • 豪雨・津波対策(防潮堤の建設など)
  • 農作物の高温障害対策(品種改良など)
  • 水資源の確保
  • 災害時の避難計画の策定
  • 熱中症対策

 

(出典)
環境省|新たな成長のための環境行政 -気候変動対策
国立環境研究所|気候変動適応情報プラットフォーム-気候変動と適応

国内企業による気候変動対策の事例

 

企業による気候変動対策は国内外で進んでいます。ここでは、日本の大手企業5社の取り組みをご紹介します。

事例①株式会社ファーストリテイリング

UNIQLOとGUを展開する株式会社ファーストリテイリングは、自社およびサプライチェーン全体における温室効果ガスの排出量を2030年8月期までに20%削減する長期目標を設定し、多様な取り組みを推進しています。

 

<取り組みの例>

【店舗・オフィス】

  • 全店舗にLEDを導入(ほぼ100%達成)
  • 運転時間や温度を自動制御する空調オペレーションコントロールシステムの導入
  • エネルギー効率の高い店舗の開発
  • 太陽光パネルの設置
  • 着なくなった服を断熱材にリサイクル

 

【サプライチェーン】

  • 温室効果ガス排出量の可視化
  • バイヤーズ・コンソリデーション(出荷日や希望納期が近いものを1つのコンテナに集約)
  • 倉庫から店舗への配送効率向上の取り組み(1店舗に配送できる最小値を設定、配送用段ボールの種類を減らすなど)
  • 温室効果ガス排出量の少ない原材料への切り替え

 

(出典)
ファーストリテイリング|気候変動への対応
UNIQLO|気候変動への対応

事例②トヨタ自動車株式会社

カーボンニュートラルの実現を目指して「ライフサイクルCO₂ゼロチャレンジ」「新車CO₂ゼロチャレンジ」「工場CO₂ゼロチャレンジ」などの目標を掲げ、「つくる」「はこぶ」「つかう」「廃棄・リサイクル」など、車のライフサイクル全体を通してCO₂の排出量を削減する取り組みを進めています。

 

<取り組みの例>

  • 生産工程の短縮
  • 廃熱や雨水の利用
  • 電気などのエネルギーを必要としない製造装置の利用
  • 電動車の車種を増やす、水素エンジン車の開発推進
  • リサイクル技術の開発推進

 

(出典)
トヨタ|気候変動

事例③ANAホールディングス

ANAホールディングスは、CDP気候変動の最高評価である「Aリスト企業」に2年連続で選定されています(2023年時点)。長期環境目標として「2050年カーボンニュートラル」を掲げ、積極的に取り組んでいます。

 

<取り組みの例>

【航空機の運航】

  • 機体整備や飛行計画を含めた運行上の改善
  • 航空機などの技術革新(低燃料機材・エンジンの導入、客室シートの軽量化など)
  • SAF(Sustainable Aviation Fuel)の活用(航空燃料の低炭素化)
  • 排出権取引制度(カーボンクレジットの購入)の活用

 

【航空機の運航以外】

  • 3Rの促進(プラスチック使用量や紙類資源の削減、梱包資材の再利用など)
  • 食品ロスと食品廃棄の削減(食品残渣の堆肥・飼料への再利用、機内食の予約サービスの充実など)

 

(出典)
ANAグループ|環境

事例④セブン&アイホールディングス

2019年5月に環境宣言「GREEN CHALLENGE 2050」を策定し、店舗運営に伴うCO₂排出量を2013年度比で2030年までに50%削減、2050年までに実質ゼロにする目標を掲げています。気候変動に伴うリスクへの適応策や緩和策として、以下のような取り組みを推進しています。

 

<取り組みの例>

  • 環境循環型農業「セブンファーム」を国内11カ所に展開
  • 緊急時の対応方法をまとめた冊子を社員に配布
  • 災害情報の提供・共有・共用ができるシステムの構築
  • LED照明や太陽光発電の導入
  • 「再エネ100%」の店舗運営の実証実験
  • 電気自動車用充電器の設置、水素ステーションの店舗併設

 

(出典)
セブン&アイホールディングス|気候変動対策

事例⑤大和ハウスグループ

電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的な企業連合「RE100」と、エネルギー効率の倍増を目指す「EP100」に建設業として世界で初めて同時加盟し、省エネ・創エネ・蓄エネ技術を活用した「再生可能エネルギー100%」の住宅や建築、街づくりを推進しています。

 

<取り組みの例>

  • 再エネ自給型のネット・ゼロ・エネルギーハウス(ZEH)を推進
  • 街全体でエネルギーゼロを目指すスマートシティの開発
  • 本社ビルや施工現場、住宅展示場における、再エネ発電所由来の再エネ電気への切替え
  • サプライヤーとの協働による木材調達における森林破壊ゼロの取り組み

 

(出典)
大和ハウス工業|環境への取り組み

海外企業による気候変動対策の事例

 

主要な海外企業3社の取り組みも参考にしてください。

事例①Apple

グローバルな企業運営において、すでにカーボンニュートラルを達成しているAppleでは、サプライチェーンの100%カーボンニュートラルを目指す「Apple 2030」を掲げ、包括的な取り組みを行っています。

 

<取り組みの例>

  • 筐体やケースにリサイクル素材を活用
  • パッケージの脱プラスチックおよびコンパクト化
  • 低炭素輸送を推進(航空輸送以外の輸送手段を優先的に採用)
  • ロボットを活用した廃棄製品の分解・希少素材の取り出しの効率化
  • 44カ国にあるすべてのオフィス、直営店、データセンターの電力をすべて再生可能エネルギーで供給

 

(出典)
Apple|環境

 

事例②Amazon

Amazonは、2040年までにネットカーボンゼロ(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を達成するコミットメントを公表しています。その一環として2025年までに事業全体を100%再生エネルギーで行うよう、多様な取り組みを推進しています。

 

<取り組みの例>

  • 発送用パッケージの軽量化・削減
  • 電気配送車の利用
  • 物流拠点や仕分けセンターに屋上太陽光発電システムを設置
  • 森林再生に1億ドルを投資

 

(出典)
Amazon|環境への取り組み

事例③ユニリーバ

世界有数の消費財メーカーであるユニリーバは、2039年までにバリューチェーン全体におけるCO₂排出量を実質ゼロにすることを目指しています。ユニリーバ・ジャパンでは国内の全事業所で100%再生エネルギーを実現するなど、成果につながる多様な取り組みを進めています。

 

<取り組みの例>

  • 工場における省エネ診断や部品・設備の見直しを実施
  • 廃熱や洗浄水の再利用
  • 物流の効率化につながる発注にインセンティブを付与する制度を導入
  • トラックの積載率を高める取り組み(製品のケースやパレットのサイズを見直し)

 

(出典)
ユニリーバ|気候変動へのアクション

まとめ

気候変動は事業活動にさまざまなリスクをもたらします。経営の持続可能性を高めるためにも、緩和策と適応策を組み合わせて、気候変動対策に取り組むことが重要です。ご紹介した国内・海外の企業の事例を参考に、自社の事業特性に合った取り組みを推進しましょう。

 

当社では、気候関連分野における多様な課題・ニーズに合わせたソリューションをご提供しています。TCFD対応に向けた方針・戦略の策定支援やCDPなどへの回答支援も行っておりますので、お気軽にご相談ください。

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