【基本解説】温室効果ガスの排出量算定| Scope1,2,3の概要から算定方法まで
脱炭素経営を実現する第一歩は、事業活動における温室効果ガス排出量を算定することです。
近年は、自社のみならずサプライチェーン全体の排出量を算定・報告する必要性も高まっているため、脱炭素の取り組みを強化する場合は算定方法を理解しておく必要があります。
この記事では、温室効果ガス排出量算定の国際基準GHGプロトコルが定めるScope1,2,3に沿って、「何を・どのように」算定するのかを解説していきます。
温室効果ガスの排出量を算定する必要性
日本では「温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)」によって、温室効果ガスを多量に排出する事業者(特定排出者※)に対し、温室効果ガス排出量の算定および国への報告を義務づけています。特定排出者とされている事業者は、現状の排出量を算出・把握したうえで、温室効果ガス削減に取り組むことが求められています。
※特定排出者の基準
環境省:温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度 |Q&A 温室効果ガスの排出量の報告が必要になる者(「特定排出者」)は誰ですか。
温室効果ガスとは
温室効果ガスとは、大気中に含まれる成分のうち、太陽から放出された熱を吸収し地表を温める作用(温室効果)のあるガスの総称です。英語表記「Greenhouse Gas」の頭文字をとった「GHG」と呼ばれることもあります。
地球の表面温度は温室効果ガスの働きによって14度程度に保たれています。温室効果ガスがなくなると地球の表面温度は-19度になると言われているため、多様な生物が暮らすうえで温室効果ガスは必要不可欠なものです。一方で、温室効果ガスが増えすぎると地球温暖化を促進するため、近年は削減に向けた取り組みが世界中で推進されています。
温室効果ガスの代表的なものは二酸化炭素ですが、温対法では以下の7つを温室効果ガスと定めています。
<温室効果ガスの種類>
- 二酸化炭素(CO₂)
- メタン(CH₄)
- 一酸化二窒素(亜酸化窒素、N₂O)
- ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)
- パーフルオロカーボン類(PFCs)
- 六フッ化硫黄(SF6)
- 三フッ化窒素(NF3)
GHG排出量算定に役立つ国際的なガイドライン
温室効果ガスの算定にあたり、各国の事業者が活用しているのがGHGプロトコルです。GHGプロトコルとは温室効果ガス排出量の算定や報告に関する国際的なガイドラインのことで、事業活動における温室効果ガス排出量を以下の3つのScopeに分類しています。
Scope1~3のうち、温対法における特定排出者に報告が義務付けられているのはScope1およびScope2(事業者自らが直接的・間接的に排出する温室効果ガス)となります。
また近年は、SBT(Science Based Targets:科学的根拠に基づく目標)のイニシアチブによる認定取得を目指す企業も増えています。SBTの認定を受けるには、事業者単体での排出量に限らず、取引先を含めたサプライチェーン全体における排出量(サプライチェーン排出量)を把握することが求められます。サプライチェーン排出量はScope1、Scope2、Scope3を合算することで算出するため、SBTの認定に向けて取り組む際は、Scope3についても対応する必要があります。SBT認定に向けた取り組みについては詳しい資料もありますので、ぜひご活用ください。
(出典)
環境省 | サプライチェーン 排出量算定の考え方
経済産業省 資源エネルギー庁 | 知っておきたいサステナビリティの基礎用語~サプライチェーンの排出量のものさし「スコープ1・2・3」とは
サプライチェーン排出量の算定方法
サプライチェーン全体の排出量を算定するには、3つのScopeの排出量を算出する必要があります。
ここでは、各Scopeの基本的な算出方法を紹介します。
【Scope1】自社が直接排出するGHGの算定
Scope1は、事業者自らが直接排出する温室効果ガスを指し、発生の仕方によって以下の2つに大別されます。
算定対象は、連結対象の子会社や建設現場など、自社が所有または管理下にあるすべての事業活動です。
温室効果ガスの排出量は、基本的に以下の算定式で算出します。
温室効果ガス排出量 = 活動量 × 排出係数(排出原単位)
活動量とは、温室効果ガスの排出量に関連した事業活動の規模のことで、電気の使用量や貨物の輸送量、廃棄物の処理量などが該当します。
排出係数は、活動量あたりの温室効果ガスの排出量を指します。排出活動ごとの算定方法や排出係数は環境省の下記ガイドラインに記載されていますので、確認しながら進めましょう。
▼温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度
https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/
▼算定方法・排出係数一覧
https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc
【Scope2】自社が間接的に排出するGHGの算定
Scope2では、他社からのエネルギー供給によって自社が間接的に排出する温室効果ガスを算定します。例えば、自社のオフィスビルや工場で使用する電気の供給元である電力会社で発生する温室効果ガスなどが該当します。
Scope2の算定方法は、Scope1と同様に【活動量 × 排出係数(排出原単位)】です。活動量はエネルギー消費量を指し、電力であれば電力使用量(Kwh)を請求書などで確認します。
また、GHGプロトコルが策定したガイダンスでは、Scope2を算定・報告する際に「ロケーション基準」と「マーケット基準」の両方を用いるよう定めています。
エネルギー事業者が算出する排出係数は、環境省の下記ページで確認できます。
▼ガス・電気・熱供給事業者の排出係数一覧
https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc
【Scope3】15カテゴリにおけるGHG排出量の算定
Scope3では、Scope1,Scope2以外で間接的に排出される温室効果ガスを算定します。環境省は、Scope3を下図のように15のカテゴリに分類しています。
15のカテゴリは、サプライチェーンにおいて購入に関わる「上流」と、販売に関わる「下流」に分類できます。具体的には、カテゴリ1~8が上流、カテゴリ9~15が下流となります。
出典:環境省 |「サプライチェーン排出量算定に関する説明会」資料
Scope3の算定範囲は非常に幅広いため、やみくもに算定するのではなく、目的を明確にしたうえで体系的に進めることが重要です。以下に、環境省が推奨するサプライチェーン排出量算定の4つのステップを紹介します。
<サプライチェーン排出量算定の進め方>
(出典)
経済産業省 資源エネルギー庁|知っておきたいサステナビリティの基礎用語~サプライチェーンの排出量のものさし「スコープ1・2・3」とは
サプライチェーン排出量を算定するメリット
サプライチェーン全体の排出量を算定することは、企業にさまざまなメリットをもたらします。ここでは、4つのメリットを紹介します。
メリット1:優先すべき削減対象を特定できる
自社の事業活動に関わる温室効果ガスの総排出量や、どこからどの程度排出されているかの割合などを把握できるようになり、注力すべき削減対象を特定できます。排出源と排出量が可視化されることで、自社にとって効果的な対策を打てるようになります。
メリット2:環境経営や削減貢献量の指標として活用できる
継続的にサプライチェーン排出量を算定し経年変化を把握することで、温室効果ガス削減対策の進み具合が可視化されるため、環境経営指標として活用できるようになります。また、温室効果ガスの削減貢献量の評価指標としての活用も可能です。
メリット3:ステークホルダーの信頼が向上する
ESG投資が注目されている昨今、企業による環境情報の開示は投資家をはじめとするステークホルダーからの信頼向上につながります。サプライチェーン排出量や温室効果ガス削減対策の進捗状況などを定量的に示すことで、環境経営に関してポジティブな評価を得やすくなります。
メリット4:取引先との関係強化
サプライチェーン排出量の算定および削減への取り組みは、自社のサプライチェーンに関わる取引先との密接な連携が不可欠です。排出量削減という同じ目標を共有し、これまで以上に踏み込んだ情報共有や意見交換を行うことで、取引先との関係性がより強固なものになる可能性があります。
まとめ
サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を算定することは、脱炭素の取り組みを効果的に進めるうえで欠かせないプロセスです。Scope1,2,3に沿って適切に算定・報告することで、対外的にも脱炭素に向けた対策状況を具体的かつ定量的に示すことができ、ステークホルダーからの信頼向上につながります。
当社は、脱炭素経営を目指すお客さまの多様なニーズに合わせたソリューションをご提供しています。温室効果ガス排出量の可視化やScope1,2,3の算定に関するご支援も行っておりますので、お気軽にご相談ください。
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執筆者:霜山竣、中野晴康
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