〈エネルギー特集③〉2024年最新!FIT非化石証書入札結果解説

はじめに
連載第3回目となる〈エネルギー特集③〉は、「非化石証書」にフォーカスしたいと思います。非化石証書とは何か、2024年の取引結果をふまえて解説します。環境価値全般について詳しく知りたい方は、〈エネルギー特集②〉カーボンオフセットと環境価値クレジットについての記事をご覧ください。

非化石証書の種類

非化石証書は、日本国内で取引される環境価値の1つです。日本卸電力取引所(JEPX)のオークションより調達することが可能で、3種類に分かれています。以下に簡単に概要をまとめています。

 

表1 非化石証書の種類について
非化石証書の種類について

出典:資源エネルギー庁「非化石価値取引について」を参考に当社作成

2024年度オークションからの変更点

非化石価値取引は、2024年度より制度が改正されました。

 

  • 年会費の上昇と会員数
  • 全量トラッキング
  • 入札方法、約定ルール

 

上記の3項目について、それぞれ解説していきます。

年会費の上昇と会員数

非化石証書を購入できる対象は、小売電気事業者、需要家、仲介事業者となっていますが、日本卸電力取引所で取引を行う場合は、会員になる必要があります。

 

表2 JPEX会員費用について

JPEX会員費用について

出典:電気・ガス取引監視等委員会事務局,令和6年3月26日資料より当社作成
https://www.emsc.meti.go.jp/activity/emsc/pdf/503_03_00.pdf

 

2023年度まで、年会費は12万円、売買手数料は0.01円/kWhでした。2024年度より年会費は5倍の60万円、取引売買手数料は10分の1の0.001円/kWhへ変更になりました。

 

現在493社が会員ですが、2024年度からの値上げにより会員数の変動が想定されます。これまで、自社分・グループ分の調達量が多いため、会員になることを選択していた会社が、環境価値取引代理・仲介会社を利用しての調達に変更する可能性があります。

 

全量トラッキング

2021年度より、FIT非化石証書の全量トラッキングが開始し、2024年度より、非FIT非化石証書の全量トラッキングが開始になります。指定せず購入した人に対して、ランダムに割り当てが行われます。

 

トラッキング付非化石証書について

トラッキング付非化石証書はRE100(Renewable Energy 100%)への報告に活用できます。RE100とは、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目標とするイニシアチブです。どこの発電所でどのように発電された電気なのか、どういった証書を購入しているかという根拠を示すために、トラッキング情報が必要になります。

 

また、RE100では再生可能エネルギー導入を促進するために、運転開始から15年以内の電源調達しか認めないという方針があります。これにより、いつまでも古い再エネ発電を評価するのではなく、再生可能エネルギー導入量を増やすことへの評価が高まる仕組みになっています。

 

【非化石証書でトラッキングされる情報】

  • 1.設備ID
  • 2.発電設備区分
  • 3.発電設備名
  • 4.設置者名
  • 5.発電出力(KW)
  • 6.認定日
  • 7.運転開始または予定日
  • 8.設備の所在地
  • 9.割当量(kWh)

 

FIT非化石証書トラッキングの優先割当の扱い方について

トラッキングは、非化石価値オークション前に小売事業者や需要家が、個別に発電事業者と合意した場合は、設備のトラッキングを優先的に得ることができる仕組みとなっています。

 

本来、FIT制度を利用している設備の環境価値は、賦課金負担をしている全需要家に権利が帰属すると整理されており、制度の見直しが検討されています。

 

FIT非化石証書の調達は、単純入札の他に、特定卸供給、小売買取・個別合意があります。それぞれの制度は、以下の方針となっています。

 

  • 特定卸供給:当面継続
  • 小売買取・個別合意:基本的に廃止、既に利用している事業者への影響を考慮して経過措置が認められている。廃止時期は未定である。

 

今後も、状況に応じて制度変更の可能性があります。

入札方法、約定ルール

FIT非化石証書を調達する際に、②のトラッキングをどのように指定するかという方法の説明です。

 

  • 購入希望者は入札時に価格、数量、希望するトラッキング属性を提示
  • トラッキング属性(設置都道府県・発電種別・RE100)の希望をそれぞれ選択する
  • トラッキング属性の希望がない場合は、ランダムに設備情報が付与される
  • 同一のトラッキング属性希望があった場合、入札価格の高い順に希望量を付与する

 

以下の図は、 FIT太陽光トラッキング都道府県別需給状況ついてについての資料です。

 

図1  FIT太陽光トラッキング都道府県別需給状況ついて

出典:資源エネルギー庁「非化石証書について2023年9月11日」

 

こちらは2023年度の太陽光発電ですが、福岡県では割当可能量に対して割当希望量の方が高く、調達が難しい状況であることがわかります。

 

今後は、トラッキング属性において、都道府県・発電種別を選んだとしても、調達が難しくなる事例が増えてくると予想されます。

非化石証書のオークション結果

非化石証書のオークションは8月、11月、翌年2月、5月の計4回の取引が行われています。2024年度第1回(8月)オークションの結果とこれまでの取引結果をもとに解説します。

 

各年度の初回約定率の推移

以下のグラフは、各年度の初回約定率の推移をまとめています。2021年度は第1回が行われていないため、第2回の数値で作成しています。

 

2021年度は3.4%であった約定率は、年度を重ねるごとに上昇が続いており、今年度の初回では、47.8%まで上昇しています。2030年の温室効果ガス削減目標達成に向けて、企業意識の高まりが影響していると考えられます。

 

約定価格は最低入札価格が、2022年度までは0.3円/kWh、2023年度からは0.4円/kWhとなっています。約定価格をみていくと、ほぼ最低価格での約定であることがわかります。

 

FIT非化石証書、各年度初回約定率の推移について

図2 FIT非化石証書、各年度初回約定率の推移について
出典:JEPX「取引市場データ」を参考に当社作成

各年度売入札数量の推移

2021年度からの年度別売り入札数量(単位:kWh)を図3にまとめました。過去3年分のデータがありますが、総量としての変化はほぼありません。今後の総量は、大きく増加はしないと推測されます。理由は、以下の3点です。

 

  • 1.FIT価格の下落によって新規設備が増えていない
  • 2.家庭用のFIT終了
  • 3.FIT以前の制度であるRPS法※からの移行分が順次終了している

※RPS法とは、固定価格買取制度(FIT)以前の制度で、2012年6月末で廃止になっています。この制度は、電力会社に対して、一定割合の再生可能エネルギーを調達することを義務づけるものです。

 

2032年以降は事業用についてもFIT終了が起きるため、さらに下がり続けると考えられます。
FITは2012年7月より開始しました。家庭用は10年間、事業用は20年間固定価格で買い取りする制度です。

 

図3を見ると、回ごとに販売総量が増えているように見えると思いますが、それは第1回で約定しなかった分を第2回目でも販売されていることが影響しています。

 

そのため、初回から約定していない分は第4回まで繰り越されることで販売量が多くみえています。なお、FIT非化石証書の未約定分が、翌年度に持ち越して販売されることはありません。

 

FIT非化石証書、各年度販売総量の推移について

図3 FIT非化石証書、各年度販売総量の推移について

出典:JEPX「取引市場データ」を参考に当社作成

今後の調達傾向

FIT非化石証書の、これまでの約定率をもとに今後の落札率予測を行いました。環境価値への注目度が高まっていることを示しています。今後、長期間にわたり安定的に調達するためにはどうするべきかを解説します。

2030年までの落札率予測

図4は、FIT非化石証書の再生可能エネルギー価値取引市場が始まってからの3年間の落札率をもとに、2030年までの落札率を誤差範囲つきで当社にてシミュレーションしたものです。

JPEX「取引市場データ」
図4 FIT非化石証書の落札率の推移と今後の予測について

出典:JEPX「取引市場データ」を参考に当社作成

 

実績値に基づく数値で進捗した場合、2027年には約100%の落札率に到達します。各年度売り入札数量の推移についての図3で示した通り、FIT非化石証書のオークション総量の変化はほとんどない状況です。

 

このことから、早ければ2026年度から現状の価格でFIT非化石証書を調達できなくなる可能性が高いと考えられます。

確実な環境価値の調達に向けて

現在、FIT非化石証書は最も安価に調達できる点で優れています。ですが、量に限りがあり、約定率が上がっている点を考慮すると、近い将来、調達価格が上昇する可能性は高いでしょう。

 

環境価値を調達する以外にも、再生可能エネルギー由来の電力調達への切り替え、太陽光などの再生可能エネルギーを設置することでの対応も可能です。導入コストを考慮して、環境価値調達を行っている企業も少なくありません。CO₂排出量削減を行ったあと、最終的に不足分を補うキーポイントは環境価値です。

 

今後の非化石証書調達価格の上昇を見越して、市場取引ではないグリーン電力証書などの相対契約をおすすめします。2030年のカーボンハーフ(2000年比で温室効果ガス排出量を50%削減すること)達成に向けて、各企業は本腰を入れて取り組みを加速されています。

 

非化石証書を入札調達できずにカーボンハーフを達成できなかった場合、企業価値の低下につながる恐れがあります。確実な環境価値の調達を実施していくうえで、ぜひ将来ビジョンを検討していただきたいと考えます。

さいごに

証書の需要は、2030年に近くなるにつれて確実に上がっていくでしょう。

 

現在、最安値で購入できている非化石証書も2027年前後で落札率が100%に到達すると予想されます。日本で認められている環境価値である非化石証書、J-クレジット、グリーン電力証書を組み合わせて環境価値のベストミックスを目指すためにも、いち早く行動することが重要です。

八千代エンジニヤリングの取り組み

当社では、グリーン電力証書発行事業者の免許を取得して事業を行っています。調達のご相談や、グリーン電力証書化のお手伝いもしておりますのでお気軽にご連絡ください。

 

グリーン電力証書navi 

https://www.green-denryoku.com/

 

【参考資料】
・資源エネルギー庁 非化石価値取引市場について
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/ANRE_20210203.pdf

・資源エネルギー庁 非化石価値取引について 2024年2月7日
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/01_ANRE_240207_RE-Users.pdf

・資源エネルギー庁 非化石価値取引について-再エネ価値取引市場を中心に-
2023年2月9日
https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/01_ANRE_230209_RE-Users.pdf

 

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