<エネルギー特集④>グリーン電力証書の現場に迫る第1回/全2回

はじめに
これまで「環境価値」や「非化石証書」について、解説してきました。
非化石証書の調達量が増加する一方で、供給不足が懸念される状況も見えてきました(詳しくは連載第3回をご覧ください)。

第4回は、官民連携によるグリーン電力証書事業で環境価値を提供している、佐賀市との取り組みをインタビュー形式でご紹介します。
実際の声から、環境価値を地産地消する選択肢についてご検討ください。

グリーン電力証書事業に取り組むきっかけ

 

当社のエネルギー分野のコンサルタント喜多川さん

 

喜多川)最初に、グリーン電力証書事業に取り組むことになったきっかけについてお伺いさせてください。当初、清掃工場のエネルギー活用を検討する際に、グリーン電力証書事業をご提案したところ、「実は導入を考えられていた」とお話されていました。

 

 

田中)そうですね、市の下水浄化センターでは消化ガス発電を行い、使用電力の約4割を賄っています。この環境価値を「グリーン電力証書」として活用していましたが、清掃工場でも同様の取り組みができるのではと考えました。

 

また、佐賀市には「バイオマス産業都市構想」があり、下水浄化センターと清掃工場はその基盤として重要な施設です。この2施設を軸に、環境施策をさらに進めていくことになりました。

 

 

喜多川)佐賀市さんはかなり先進的な取り組みをされていると思います。なぜここまで踏み込んだ取り組みに挑戦できたのでしょうか?

 

田中)佐賀市は2010年に「環境都市宣言」を行い、その後2014年に「バイオマス産業都市構想」の認定を受けました。さらに菅総理(当時)の脱炭素宣言よりも早いタイミングで、2020年12月には「ゼロカーボンシティ宣言」を行いました。

 

こうした流れの中で、環境配慮の取り組みの一環として、グリーン電力証書事業は特別なものというより、実現可能な選択肢の一つとして進められました。

 

 

喜多川)確かに、佐賀市さんはグリーン電力証書事業に限らず、政策全般で国の政策や地域の動きよりも一歩先んじた取り組みをされていますよね。排ガスからの回収CO2の「ISCCプラス認証」を全国で初めて取得されたのもその一例ですよね。

 

 

田中)平成の大合併を契機に、小規模なごみ焼却施設を統合して効率化を図り、発電量を増やす取り組みを行ってきました。それを地域に還元する一環として「CCU事業」も始めました。CO₂の回収事業は、地域の企業に活用いただくことで環境価値を生み出したいと考えています。地元に負担をかけるだけでなく、どう地域に還元できるかを常に念頭に置いて進めています。

 

 

喜多川)清掃工場のイメージ変革が期待される中で、グリーン電力証書事業を始めるにあたって庁内での反対意見や課題はありましたか?

 

 

田中)下水浄化センターで消化ガス発電を行っていたこともあり、大きな反対はありませんでした。

 

ただ、検定付きの電力量計を設置する必要がある点や、月に1回メーターを確認する負担が増えるという課題はありました。反対というよりは、多角的に検討すべき点がいくつか挙がりました。

 

 

喜多川)庁内では、事業の意義をどのように説明されたのでしょうか?

 

 

田中)もちろん収入面のメリットもありましたが、それ以上に「地域連携」が強く共感され、賛同が得られたことが、とてもうれしいですね。

 

 

喜多川)佐賀市さんがグリーン電力証書事業に取り組むとおっしゃってから、事業開始まで、非常に短期間でした。他の自治体では通常、来年度予算を確保してから始めるケースが多いですが、佐賀市さんは約半年で実施されましたよね。

 

 

田中)そうですね。未執行の事業予算が若干ありましたので、それを活用して早急に実施しました。庁内の理解を早く得られたことも、スピーディーに進められた要因だと思います。

 

喜多川)通常、電力量計の設置は、清掃工場の定期整備時に全停電を伴って行うのが一般的ですが、それを待たずにこのためだけに停電を行ったと伺いました。その迅速な対応には驚きました。

 

 

田中)確かに、定期整備時の実施が一般的ではありましたが、予算を確保したタイミングや整備スケジュールの兼ね合いでそれが難しかったんです。

 

短期間の売電収入減を受け入れても、5~10年というスパンで費用回収は十分可能と判断しました。それよりも翌年に環境価値を創出できないリスクの方が大きいと考えました。

グリーン電力証書事業による地域脱炭素

佐賀市の田中様

 

喜多川)事業開始にあたり、環境価値を企業に提供することで、佐賀市のCO₂排出量が見かけ上増加してしまう点や、温対法や省エネ法への影響については、議論がありましたか?

 

 

田中)はい、その点は環境政策課で「ゼロカーボンシティ」推進の中でしっかり議論しました。温対法や省エネ法の報告対応は必須事項として取り組むべきとの話がありました。

 

 

喜多川)多くの自治体では、その段階で議論が止まってしまうケースも少なくありません。特に、地球温暖化防止実行計画の事務事業編では影響がなくても、省エネ法や温対法への対応が必要になるため、そこで壁に直面するようです。

 

 

田中)自治体ごとに重視するポイントは異なります。ただ、実施することで多少なりとも収入が得られますので、それを市民向け講座や広報啓発活動に活用したり、金銭的な支援や補助事業につなげたりすることが可能です。そうした取り組みが、結果的に地域づくりに役立つと考えています。

 

 

喜多川)そうですね。佐賀市さんは得られた収入の活用において、理想的なモデルケースだと思います。例えば、太陽光発電や電気自転車の普及に拠出されていますが、具体的にはどのように実施されていますか?

 

 

田中)グリーン電力証書事業での収入は、環境部専用の「特定財源」として位置づけています。この仕組みのおかげで、環境部として柔軟に予算を活用できるのが大きなポイントです。例えば、蓄電池の普及を進めるための資金として使うこともできます。

 

また、もともと清掃事業にはごみの搬入手数料やごみ袋収入といった財源があり、その仕組みを活用してきたことが背景にあります。

 

 

喜多川)他の自治体では、必ずしも同じように特定財源として使われていないケースもあるようですね。

 

 

田中)仮に特定財源でなかったとしても、得られた収入を市民に還元することで、地域全体の脱炭素化に貢献することが重要だと思います。

 

 

喜多川)私たちも、この事業を推進する上で、地域脱炭素への貢献が重要だと考えています。佐賀市さんでは、グリーン電力証書事業を通じて6年ぶりに市民向けの補助金を復活させたと伺いましたが、市民や企業からの反応はいかがでしたか?

 

 

田中)はい、補助枠自体は少なかったのですが、先着順ではなく応募抽選方式を採用しました。家庭用の太陽光蓄電池については募集枠15件に対して100件以上の問い合わせがありました。

 

また、EV自転車に関しては先着順で、すぐに募集枠が埋まりました。

 

 

喜多川)素晴らしいですね。このような取り組みを毎年続けることで、太陽光発電がさらに普及していくと良いですね。太陽光と蓄電池のセットは電力の有効活用にもつながります。

 

 

田中)2023年度には、EV充電設備を補助対象にしました。同じ環境部の環境政策課と連携し、毎年効果を確認しながら補助メニューを少しずつ見直しています。市民のニーズを反映しつつ、継続的に改善を図っています。

 

 

喜多川)環境価値の地域内活用を進めることで、事務事業編では排出量が変わらなくても、区域全体、特に民生部門のCO₂削減につながると思います。

 

 

田中)区域施策編ではCO2排出量算定に按分法を用いているため、この取り組みが直接反映されない点は少し残念です。

 

しかし、自治体排出カルテでは太陽光発電の件数が増えていることが確認できます。補助金制度があることで、「太陽光発電を導入してみよう」と考える市民が増えてきているようです。

 

 

喜多川)市民の方から直接の問い合わせが多いのでしょうか?

 

 

田中)はい、市民からの直接の問い合わせも多いです。またハウスメーカーからの紹介を受けるケースもあるようです。

 

最近では、太陽光発電の売電単価が下がってきたため、自家消費の方がメリットが大きいと感じる市民も増えています。市が補助を出すことで、市民の意識を変えるきっかけにもなっていると思います。

 

 

喜多川)一方で、省エネ診断やZEB・ZEHの普及にも収入を活用しているのでしょうか?

 

 

田中)はい、そうです。まずはエネルギーの使用量を削減することが重要ですので、企業向けには省エネ診断が主な取り組みとなっています。

 

 

喜多川)補助メニューが幅広いですね。当初は環境学習や再エネ普及啓発の宣伝イベントも検討されていたと伺いましたが、最終的にはエネルギーの削減や創出に重点を置かれているのですね。

 

 

田中)その通りです。補助金を活用するには一定の金額が必要になるため、それに見合う効果が期待できる内容を選んで取り組んでいます。

 

グリーン電力証書を企業へ供給する

 

喜多川)グリーン電力証書事業の全国展開を進めるにあたり、供給側として企業とどのように連携していくべきだとお考えでしょうか?

 

 

田中)佐賀市では、「バイオマス産業都市構想」をきっかけに、大企業と中小企業をマッチングさせてきたことが成果につながっています。

 

また、官民連携はそれぞれのメリットを活かすだけではなく、地域課題や社会課題の解決にどう結びつくかを重視するようになってきています。この考え方は、グリーン電力証書事業に限らず、さまざまな取り組みに共通していると思います。

 

 

喜多川)一昔前までは、官民連携といえば広報的側面が強い印象でしたが、今ではCSR活動として社会貢献事業が当たり前になってきましたね。

 

 

田中)そうですね。企業も「社会課題に貢献する」という姿勢を打ち出していますが、それは行政課題や地域課題と密接に関わっています。

 

企業が成長するには、地域に根ざし、地域から信頼される企業であることが必要です。CO₂排出削減や地球温暖化問題への対応も、その一環だと思います。

 

 

喜多川)おっしゃる通り、再エネ比率を高めることは間接的かもしれませんが、社会課題の解決につながっています。

 

一方で、電気代の負担を懸念する中小企業も多いと思います。田中さんのご経験を踏まえ、脱炭素をさらに広げていくにはどのような取り組みが必要だとお考えですか?

 

 

田中)地域特性を捉えることが重要だと考えています。

また、意外と身近なところに課題やヒントがあるものです。「スマート」な施策だけでなく、地道で現場に密着した取り組みも大切だと思います。電力の再エネ化は重要ですが、それだけでなく、地元を見つめ直し、地域の中で対話やコミュニケーションを重ねることで、新たな解決策が生まれることもあります。

 

 

喜多川)グリーン電力証書の導入を検討している自治体の方々に向けて、何かアドバイスをいただけますか?

 

特に、区域施策編の導入初期や、得られた収入を活用して地域に再エネや省エネ設備を導入する佐賀市のモデルについて、お考えをお聞かせください。

 

 

田中)さまざまな意見が出るので、全体をまとめるのは簡単ではありません。その中で自部署だけでなく、広く意見に耳を傾けることが重要です。また元々ごみは市民から提供された資源であり、そのエネルギーも行政が勝手に使うものではなく、市民のものだと考えるべきです。

その視点に立てば、市民に還元する方法の一つとして捉えられると思います。

 

さいごに

佐賀市の田中様と当社の喜多川さんの写真

 

喜多川)佐賀市清掃工場が最近ISCCプラス認証を取得されましたが、このような珍しい取り組みをされた背景には、どのような理由があったのでしょうか?

 

 

田中)佐賀市清掃工場ではCO₂分離回収に取り組んでおり、そのCO₂を高付加価値化して、新たな民間企業の利用用途を拡大できないかと考えたのが最大の理由です。

 

焼却排ガスからの回収CO2に関して世界で初めての認証となりました。 特徴的なのは、バイオマス比率に応じた「生物由来100%認証」を取得できた点です。

 

 

喜多川)現在も民間企業へCO₂を供給されていると伺っていますが、そのようなニーズはどのような背景で生まれたのでしょうか?

 

 

田中)生物由来100%認証のCO₂として適用できれば、CO₂を販売し、将来的にはカーボンクレジットとしての収入も期待できます。それにより、CO₂販売価格をもう少し安価に設定できる可能性もあります。

 

この取り組みは、CCU(炭素回収利用)だけでなく、植物の光合成も含めた「カーボンネガティブ」の概念に基づいています。できるだけ多くの企業に利用していただければと思います。

 

 

喜多川)ありがとうございました

 

 

田中)こちらこそありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。

 

 

 

インタビュイー:佐賀市環境部施設機能向上推進室室長 田中和之氏
インタビュアー:当社エネルギー課コンサルタント 喜多川権士

(所属・役職は2024年10月時点)

 

 

 

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