
<エネルギー特集⑥>改正GX推進法成立!GXの概要と環境価値価格について
はじめに
連載第6回目となる<エネルギー特集⑥>は、「GX」にフォーカスしたいと思います。改正GX推進法によって何が決まったのか、最新動向をふまえて解説します。
1.GX推進法の概要
GXとは、グリーン・トランスフォーメーションの略称で脱炭素社会に向けた取り組みのことです。
GX推進法導入の背景
2020年10月に、当時の菅首相が国内の温暖化ガス排出を2050年までに「実質ゼロ」とする方針を表明しました。この表明以降、削減目標が定められ、2030年に2013年度比46%削減、2035年に2013年度比60%削減、2040年に2013年度比73%削減に向けた取り組みが進んでいます。
GXの取り組みを促進するために、2023年5月「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」が成立しました。この法律は、通称GX推進法と呼ばれており、図1に示す5つの施策が定められています。また、企業のGXを促進するために「GXリーグ」が発足し、747社[1]が参画しています。
図 1 GX推進法の概要(出典:経済産業省ホームページより)
GX-ETSの概要
GX-ETS(排出量取引制度)は、 3フェーズに分かれており、2023年度から2025年度が となる第1フェーズ、2026年度から2032年度 、2033年度以降が排出量取引の拡大期となる第3フェーズとなります 。
GX-ETSで活用できる環境価値について
GXリーグは、SHK制度[2]にて定められる算定対象活動、算定方法を基礎としています。参画企業は、GXリーグが定める適格カーボン・クレジット(表1)の無効化量を別途報告することで、自社の排出量から控除することが可能となります。自らが創出した適格カーボン・クレジット(表1)のうち他社へ移転する量がある場合、移転の申請が必要です。
活用できる環境価値を紹介します。
- 非化石証書
FIT非化石証書および非FIT証書を含むすべての非化石証書が利用可能です。利用には、図2の算定式に基づく必要があります。SHK制度で公表される係数と補正率を、図3に示します。SCOPE2の電力で活用することができます。
図 2 GX-ETSで非化石証書を活用する場合の算定式
(出典:GXリーグ算定・モニタリング・報告ガイドライン)
図 3 SHK制度で公表される係数
(出典:環境省 電気事業者別排出係数一覧(令和6 年提出用))
算定例:非化石証書を10,000kWh調達したと仮定し、図3の係数をもとに算定します。
10,000kWh×0.000438×1.02=4.4676t-CO₂
- グリーン電力証書(グリーンエネルギーCO₂削減相当量)
自社の間接排出量から控除することが可能で、SCOPE2の電力で活用することができます。グリーン電力証書を温対法で活用するためには、CO₂削減相当量認証制度への登録が必要です。t-CO₂への換算は、グリーンエネルギーCO₂削減相当量認証制度にて公開されている電力排出係数を用います。
- J-クレジット
再エネ、森林など複数種類がありますが、全種類活用することが可能です。また、J-クレジットの前身であるJ-VERも活用可能です。
- Jブルークレジット
GX-ETSで活用できるクレジットとして、Jブルークレジットの活用が期待されており、J-クレジットのように、方法論[3]に沿ったプロジェクトが開始しています。
表 1 適格カーボン・クレジット(出典:GXリーグ算定・モニタリング・報告ガイドライン)
2.改正GX推進法(2025年5月28日参院本会議可決)
改正GX推進法は、2025年5月28日に参議院本会議で可決・成立し、2026年4月1日から施行されます。変更点は次の2点です。
変更点① 排出量取引制度の法定化
CO₂の直接排出量が年10万トン以上の企業に、2026年度から排出量取引への参加が務付けられます。対象企業には、業種ごとの特性を考慮した排出枠が無償で割り当てられます。枠を超えた分の排出量は、事業者間で取引できるようになり、超過分を埋め合わせしない企業は追加の費用負担が求められます。環境価値の活用による排出量削減も可能ですが、非化石証書の減少などの要因から、将来的な不足も懸念されます。排出枠の取引市場は、GX推進機構が開設します。
変更点② 化石燃料賦課金の徴収に係る措置の具体化
2028年度より、化石燃料の輸入事業者などを対象に賦課金が導入されます。化石燃料の需要家に対して、行動変容を促すことが目的です。2033年度から、発電事業者に対して、一部有償でCO₂の排出枠を割り当てて、排出量に応じた特定事業者負担金を支払う必要があります。
図 4 改正GX推進法の概要(出典:経済産業省ホームページより)
3.環境価値需要の高まりと現状について
2030年の温暖化ガス排出削減目標を達成するために、企業の環境価値調達が増加傾向です。2026年に本格開始されるGX-ETSの影響も今後想定されます。現在、安価に調達できる非化石証書も約定率が上昇しています。非化石証書とJ-クレジット再エネ・省エネについて、現状をお伝えします。
2030年までのFIT非化石証書落札率予測
エネルギー特集③の図4でお伝えした内容を、2024年の約定結果をもとに更新しました。2023年実績までで試算を行った際は、2024年想定を30%としていました。2024年実績は、落札率の年間平均が25.6%という結果です。おおよそ予想とおりの進捗となります。過去4年の実績値をもとにすると、2027年には約100%の落札率に到達すると予想しています。
落札率の上昇によって、購入しにくくなることや単価が高くなる懸念がありますが、販売総量の減少も進んでいます(図6)。今後も卒FITが増えることにより、FIT非化石証書の総量は減少傾向となる想定です。
図 5 FIT非化石証書の落札率の推移と今後の予測について
(出典:JEPX「取引市場データ」を参考に当社作成)
図6 FIT非化石証書の年度別販売総量(出典:JEPX「取引市場データ」を参考に当社作成)
J-クレジット価格推移
J-クレジットは、2023年10月11日以降、東証カーボン・クレジット市場が設立され、取引されています。相対取引も可能であり、創出者との直接取引や仲介業者を通した販売も増えています。東証カーボン・クレジット市場は、1つの販売手法でありJ-クレジット市場全体を把握することは難しくなっています。
J-クレジットのなかでも、SCOPE2・CDP・SBT・温対法を重視する企業は再エネを調達し、SCOPE1・温対法・省エネ法を重視する企業は省エネを調達している状況です。取引価格も右肩上がりに伸びています。
表 2 東証カーボン・クレジット市場の売買状況(2023年10月11日~2025年5月30日)
(出典:日本取引所グループホームページより)
図 7 再エネ(電力)J-クレジット価格・売買高推移(出典:日本取引所グループホームページより)
図 8 省エネJ-クレジット価格・売買高推移(出典:日本取引所グループホームページより)
4.さいごに
各社が定める2030年、2035年以降の温暖化ガス排出削減目標を達成するためにも、環境価値活用は重要です。2026年から本格開始するGX-ETSを理解し、安定調達の工夫が必要です。市場の価格上昇を見据え、相対で調達できる環境価値を活用するのが望ましいです。
自社の排出量がSCOPE1とSCOPE2のどちらが多いかを把握し、省エネや設備導入、設備更新を進めながら環境価値を組み入れる方式が理想です。
八千代エンジニヤリングの取り組み
当社では、グリーン電力証書発行事業者として、地方自治体と連携したグリーン電力証書の発行を行っています。発行量は毎年増加しており、また地方自治体と提携しているため安定した価格でJ-クレジットよりも安価に提供しています。調達のご相談や、グリーン電力証書化のお手伝いもしておりますのでお気軽にご連絡ください。
グリーン電力証書navi
https://www.green-denryoku.com/
[1] 2024年3月時点 経済産業省ホームページより
[2] 温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度を指す。地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)に基づき、温室効果ガスを一定量以上排出する事業者に、自らの排出量の算定と国への報告を義務付け、報告された情報を国が公表する制度である。
[3] J-クレジットの方法論は、排出削減・吸収量を算定・モニタリングする際の、具体的な計算式やルールのこと。
【参考資料】
・経済産業省、GX推進法の概要
https://www.env.go.jp/content/000110823.pdf
・経済産業省、改正GX推進法
https://www.meti.go.jp/press/2024/02/20250225001/20250225001-1.pdf
・GXリーグ、GXリーグ算定・モニタリング・報告ガイドライン
・日本取引所グループ、市場開設以降の売買状況
https://www.jpx.co.jp/equities/carbon-credit/daily/nlsgeu000006ltge-att/TradedPriceandVolume.pdf
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