ウォーターポジティブとは?その内容と企業に求められる取り組みを解説

近年、水需要の増加や気候変動を背景に、水不足や水質汚染、水害といった「水リスク」の懸念が世界各地で高まっています。水を原料に使用する製造業者のみならず、さまざまな業種の企業に対し、事業活動に不可欠な水資源への取り組みが求められています。そのようななか、「ウォーターポジティブ」という考え方に注目が集まっており、複数の企業がウォーターポジティブという目標を掲げています。今回は、ウォーターポジティブの考え方や注目されている背景、その実現に資する取り組みについて紹介します。

ウォーターポジティブとは

ウォーターポジティブとは、企業が事業活動のために利用した水資源量を上回る量を自然に還すという考えです。環境省は「事業で消費するよりも多くの淡水資源を供給する考え方」という見方を示しています。しかし、国際的に統一された定義は明確にされておらず、水の取水量と消費量のいずれを基準とするかについても、見解が定まっていません。また、企業だけでなく、コミュニティや個人など、多様な主体が持続可能な水資源の管理と回復に貢献するという、より広範な概念として捉える考え方もあります。ウォーターポジティブについてはさまざまな説明がなされてますが、一般的には、取水や消費などで利用した量を上回る水資源の供給を目指す概念を指します。

ウォーターポジティブが注目される背景

水資源は、人間を含む生物の生存に不可欠であるのみならず、産業の根幹を支える基盤です。水資源の経済的価値は、2021年における世界のGDPの約60%に相当する58兆米ドルになるともいわれ、大きな価値を有することがわかります(図1)。水資源の価値には、農業や産業における直接的な利用に加え、淡水域で育まれる生物多様性の維持など、間接的な利用も含まれています。

WWFウォーターリスク・フィルターによると、現在、世界のGDPの約10%が水リスクの高い地域で生み出されており、2050年までにこの割合は46%に達するともいわれています。また、過剰な取水や気候変動により、2050年までに世界4人に3人が干ばつの影響を受けるとも言われています。さらに、過去50年間で淡水生物種の個体数は平均83%減少し、約3分の1が絶滅の危機に瀕しています。今後も人口増加に伴う水需要の増加や、気候変動に伴う渇水、淡水生態系のさらなる喪失などが懸念され、水資源の保全が求められることから、水使用量の削減に留まらず、水資源の回復を目指すウォーターポジティブが注目されています。

図1 水資源の経済的な価値への換算
出典: WWF, High Cost of Cheap Water:The True Value of Water and Freshwater Ecosystems to People and Planet, 2023 をもとに当社作成

ウォーターポジティブの達成に向けて

ウォーターポジティブに資する取り組み

環境省は、ウォーターポジティブに資する取り組みとして、「水の供給量の増加」、「水の消費量の削減」の2つのアプローチにつながる5観点16分類の活動を挙げています(図2)。「水の供給量を増加」の取り組みには、涵養能力を有する森林や緑地の保全といった水の量を増やすアプローチだけでなく、排水の水質を改善することも含まれます。「水の消費量を削減」には、雨水や再生水の利用、節水が有効とされています。

図2 ウォーターポジティブの達成に向けた取り組み

出典: 環境省, 自然資本の経済的価値評価の活用可能性について -ウォーターポジティブに資する取組の価値

 

また、WWFは、GHG排出におけるネット・ゼロ、ネット・ポジティブの考え方を、ウォーターポジティブに適応させることにはリスクがあると提案しています。水は、場所やタイミングと密接に関わる資源です。さらに、水の供給量を増やすだけでなく、供給する水の水質にも配慮する必要があります。GHG排出のように、量的なオフセットだけで負の影響を打ち消すことは困難です。

ウォーターポジティブの実現においては、科学的なデータに基づいて水資源への影響、保全効果を評価し、対策を講じることが求められます。

 

企業によるウォーターポジティブへの取り組み事例

具体的な事例として、国内外の企業で行われている取り組みを紹介します。

 

  • サントリーホールディングス株式会社

サントリーホールディングス株式会社では、製品に使用した水の量だけでなく、汲み上げたすべての地下水量の2倍以上を涵養することを宣言しています。そのための取り組みとして、全国に26か所、12,000ha以上の「サントリー天然水の森」を整備し、地下水を育む森林を保全しています。

 

  • BP

ロンドンに本社を置き、世界中で石油・ガスなどのエネルギー事業をてがけるBPは、2035年までにウォーターポジティブを実現することを目指しています。同社は、製油所における効率的な水利用に向けた調査や、VWBA(Volumetric Water Benefit Accounting: 水の保全活動がもたらす効果を評価する手法)を用いた涵養効果の評価に取り組んでいます。

 

  • Microsoft

Microsoftでは、2030年までに消費量を上回る水を補給するウォーターポジティブの実現を目指し、以下のような取り組みを行うことを公言しています。

・敷地内の雨水、再利用した排水を非飲用水として使用

・節水効果の高い配管の使用

・データセンターで使用する冷却水の削減

・水データの管理ツールの提供

・安全な水へのアクセスを目指すNGOへの協力

・河川、湖沼などの水資源の回復を目指すプロジェクトへの参加

さいごに

今回は、ウォーターポジティブの考え方、企業に求められる取り組みについて紹介しました。ウォーターポジティブの実現にご興味ある方は、水リスクに関する当社の記事をぜひご覧ください。

また、ウォーターポジティブへの取り組みは、水が地域的に偏在する資源であることを踏まえた正確な評価が求められます。当社では、企業の拠点にある流域を正確に設定した、水リスクの評価やソリューションをご提供しています。ウォーターポジティブの実現に向けた活動や水リスクの評価にお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

 

当社は作成したお役立ち資料はこちらからダウンロードできます!
https://sustainability-navi.com/ebook/

 

(出典)

BP | Sustainability:Caring for our planet

Microsoft | News Center Japan:ウォーターポジティブへの取り組み

The Guardian | Corporations are pledging to be ‘water positive’. What does that mean?

Water Resilience Coalition | Net Positive Water Impact (NPWI):Support Offered for NPWI Implementation

WWF | Net Positive Water” Considering its role in water stewardship and solving the linked freshwater, biodiversity and climate crises.

環境省 | 報道発表資料:2024年度「CDPウォーター×環境省Water Projectセミナー」の開催について

国土交通省 | 水資源:水資源問題の原因

サントリーホールディングス株式会社 | Water Positive! (ウォーターポジティブ!)

 

執筆者:今村 百花

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