
2025年国内渇水事例から学ぶ、企業の水リスクマネジメント
2025年の夏、日本国内で渇水の水リスクが現実の脅威として顕在化しました。新潟県上越市では31年ぶりとなる節水要請が、兵庫県の加古川では16年ぶりの取水制限が実施されるなど、記録的な渇水が市民生活や企業活動に深刻な影響を及ぼし始めています。
本インサイトでは、これらの最新事例を分析し、企業が直面する水リスクの本質と、今求められる具体的な対策について考察します。
国内の渇水事例 (2025年)
ケース1:インフラ問題が渇水を増幅させた「上越市」
新潟県上越市では2025年7月15日、市民に対し「40%以上の節水」を要請するという、1994年以来31年ぶりの事態に陥りました。主な原因は少雨ですが、問題を深刻化させたのはインフラの脆弱性でした。
市内の主要な生活用水の供給源の1つである城山浄水場は、4月に発生した県営発電所への導水管の破断事故により、本来の名立川と桑取川水系の上流6カ所からの取水が不可能となりました。このため、市はもう1つの主要水源である正善寺ダムに頼らざるを得なくなりましたが、少雨の影響でダムの貯水率は例年の80%台から20%台へと激減し、7月15日には26.8%まで落ち込みました。この水不足の影響は約4万6500戸、10万8000人にも及ぶと言われています。
この事例は、気候変動による渇水リスクの上昇が、既存インフラの老朽化や不測の事故といった要因と結びつくことで、いかに深刻化するかを浮き彫りにしています。
図 節水チラシ
出典:上越市ガス水道局 渇水対策本部
ケース2:典型的な渇水が直撃した「加古川 」
兵庫県を流れる加古川では、2025年8月、流域の渇水調整協議会が16年ぶりとなる取水制限を決定しました。原因は、長期にわたる降水量の不足です。2025年1月~6月の流域の降水量は過去30年間の平均値を大幅に下回り、7月の降水量も平年の半分以下にとどまりました。
これを受け、加古川大堰の貯水率は8月4日時点で65.1%まで低下。協議会の決定に基づき、工業用水で15%の取水制限が8月4日から始まり、続いて農業用水も8月7日から25%制限されるという、段階的な措置が取られました。
このケースは、渇水時に企業の操業に直接的な影響が及ぶ可能性を示す典型的なプロセスです。水利権を持つ企業であっても、渇水調整の枠組みのなかで、工業用水が比較的早期に制限対象となる可能性があることがあらためて示されました。
図 「加古川大堰渇水のため、堰放流量の削減と取水制限を実施します。」
出典:国土交通省近畿地方整備局 姫路河川国道事務所
(https://www.kkr.mlit.go.jp/himeji/kisya/2025/rirsjh00000082pv-att/20250804press.pdf)
企業に求められる渇水への備え
これらの事例は、渇水のリスクが自社の事業継続を揺るがしかねない喫緊の課題であることを示しています。企業は、戦略的な備えを講じる必要があります。
1. 自社の水リスクの再評価
初めに企業が行うべきことは、自社の拠点における水の使用状況(取水量、配水状況など)を正確に把握することです。そのうえで、上越市の事例が示すように、水源の状況や供給インフラの強靭性といった、自社ではコントロールしにくい外部要因についても評価の範囲に含めるべきです。グローバルな水リスク評価ツール(Aqueductなど)の活用に加え、ローカルな水系の情報収集が不可欠です。
2. BCP(事業継続計画)の策定と具体化
加古川の事例のように、ある日突然取水制限を通知される可能性を具体的に想定し、操業を維持するためのBCP(事業継続計画)を策定・整備する必要があります。これには、節水技術の導入や水の再利用率の向上といったハード面の対策から、代替水源の検討、緊急時の対応マニュアルの整備といったソフト面の対策まで含まれます。
3. 自然資本としての水と向き合う
短期的なリスク対応だけでなく、水を「自然資本」としてとらえ、流域全体の持続可能性に貢献する視点が不可欠です。TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)やSBTN(Science Based Targets for Nature)、AWS(Alliance for Water Stewardship)といった国際的なイニシアチブの枠組みに沿って、自社の水利用が流域環境に与えるインパクトを評価し、意欲的な削減目標を立てて開示していくことが、渇水や水に関する評判・規制などの水リスクへの備えにもなります。
さいごに
2025年に日本各地で発生している渇水は、地球全体の気候変動と密接に関連している可能性が考えられます。それは同時に、企業の事業活動が依存する水という資源の有限性を突きつけるものです。
企業が取り組むべきは、単なる節水運動ではありません。自社の水使用用途や使用量を把握し、拠点周辺の水環境を評価し、科学的根拠に基づいた削減方針と事業継続計画を策定することです。水リスクへの対応は、持続可能な操業を行ううえで不可欠なコストではなく、気候変動の時代を生き抜くための経営戦略といえるでしょう。
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執筆者
霜山 竣
大学院では水文学、熱力学を専攻。
入社後、SBT設定支援、水リスク評価、CDP回答支援(気候変動、水セキュリティ)に従事。SBTNの開発プログラムにも参加。
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