
ブルーカーボン・クレジットの仕組み&認証事例を紹介!
ブルーカーボン・クレジットとは、海洋・沿岸の生態系が吸収する二酸化炭素を数値化し、クレジットとして取り引きできる仕組みです。環境保全とカーボンオフセットを同時に実現できるため、企業や自治体の脱炭素戦略において注目を集めています。
日本は「Jブルークレジット」という独自の制度が整備されており、ブルーカーボンには取り組みやすい環境ですが、自社にどう関係するのか、どう活用できるのかがわからない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、ブルーカーボン・クレジットの基本的な仕組みや、Jブルークレジットの概要、クレジットの活用事例をわかりやすく説明します。読み終わる頃には、自社でブルーカーボン・クレジットをどう活用できるかイメージできるようになっているはずです。
ブルーカーボン・クレジットとは
ブルーカーボン・クレジットとは何かを理解するために、まずは「ブルーカーボン」について説明します。
ブルーカーボンとは
ブルーカーボンとは、海草藻場やマングローブ林、干潟といった海洋・沿岸の生態系によって吸収・貯留される二酸化炭素(CO₂)です。
炭素吸収源としては森林が有名ですが、海洋生態系もCO₂吸収量が多く、陸域と同等かそれ以上だといわれています。長期間にわたって安定的に炭素を蓄えられるのが、海洋生態系の特徴です。
日本は約35,000kmという世界第6位の海岸線を有しており、海洋・沿岸生態系の分布域が広いため、ブルーカーボンの創出・活用が温室効果ガス削減に大きく貢献することが期待されています。

ブルーカーボン・クレジットとは
ブルーカーボン・クレジットとは、海洋・沿岸生態系によるCO₂吸収量を「クレジット(排出権)」として数値化し、取り引きできるようにした仕組みで、カーボンオフセットの一種です。企業や自治体が、藻場や干潟の造成・再生活動を行い、その結果として新たに吸収されたCO₂量を第三者機関が認証することで、クレジットが発行されます。
認証・発行されたクレジットを購入すれば、自社の温室効果ガス排出量の一部を相殺(オフセット)する手段として活用できます。ブルーカーボン・クレジットを購入することで、削減しきれなかった排出量をゼロに近づけることが可能なのです。
ブルーカーボン・クレジットは、創出側・購入側の双方に次のようなメリットをもたらします。
【ブルーカーボン・クレジット創出のメリット】
- 自社の事業や地域の資源を活かしてCO₂吸収源を創出できる
- 第三者から認証されることで活動の認知度・信頼性が高まる
- クレジット売却により活動資金を調達できる
【ブルーカーボン・クレジット購入のメリット】
- 自社の残余排出量をオフセットできる
- 環境報告や企業価値向上に活用できる
- カーボンニュートラルに向けた積極的な姿勢を示せる

日本におけるブルーカーボン・クレジットの仕組み
日本では、2020年に「Jブルークレジット」という独自のブルーカーボン・クレジット制度が生まれました。一般社団法人ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が管理・運営する仕組みです。
Jブルークレジット制度は、日本国内における海洋・沿岸生態系の保全・創出活動によるCO₂吸収量を定量化・認証し、カーボンオフセットの活用を促すことを目的としています。サスティナビリティ・コンサルティングサービスを手がける当社も、認証申請手引き書(ガイドライン)の編集に携わっています。
Jブルークレジット制度における対象事業は、藻場造成や干潟再生など、海洋・沿岸の生態系を活用したCO₂吸収活動です。JBEは下記のような要件を示しており、クレジットの発行時には、ガイドラインに沿って吸収量を算定・報告することが求められます。
【Jブルークレジット対象事業の要件】
- 水産業だけでなく、脱炭素も目的としている
- CO₂吸収量の増加が、自然現象ではなく活動の成果でもたらされたものである
- クレジットの取得が、今後のCO₂吸収量の維持・拡大につながるものである
Jブルークレジット制度では、CO₂吸収量全体から、事業を実施しなかった場合のCO₂吸収量(ベースライン)を引いたものが、「CO₂吸収量(=カーボンクレジット)」として認証されます。申請・認証は1年単位で行われます。

Jブルークレジットに認証された事業の数は増加傾向にあります。カーボンニュートラル達成に向けた企業ニーズの高まりや、海洋・沿岸生態系の保全・再生が社会的価値として評価されていることなどが、その背景として考えられるでしょう。
日本でブルーカーボン・クレジットを利用するには
日本独自のブルーカーボン・クレジットである「Jブルークレジット」利用の流れを、創出側と購入側に分けて説明します。
クレジット創出の流れ
Jブルークレジットを創出したい団体は、下記の順番で手続きを進めます。
1.プロジェクト内容の検討
まずは、申請したい事業がJブルークレジットの対象になるか確認します。必須ではありませんが、事前にJBE事務局や民間のコンサルタントに相談するのがおすすめです。調査対象のエリアや関係者について、おおまかに把握しておきましょう。
2. 算定・調査方法の検討
次に、事業の内容に応じてCO₂吸収量の算定方法を選定し、どのような調査が必要かを検討します。基本的には「対象生態系の分布面積×単位面積あたりの吸収量」で、全体の吸収量を求めることができます。この場合、分布面積は実地調査が必要です。
3. 調査実施・算定
算定と調査の計画ができたら、実行に移します。調査にあたっては、現地でのドローン(空中・水上・水中)の活用や潜水での目視観察などにより、おおまかな生態系区分ごとの面積や密度などを把握します。この際、写真などで現地の水中での記録(エビデンス)を残すことが必要です。
得られたデータを用い、対象の生態系による吸収係数を既存文献や事例等から選定し、この数値を(密度を考慮した)面積に乗じることでCO₂吸収量を計算したあと、ベースラインなどを差し引きし、事業によるCO₂吸収量を算出します。
4. 申請手続き
必要なデータをそろえたら、「Jブルークレジット運用システム」に登録し、オンラインで入力を行います。事業の内容や、Jブルークレジットを取得したい理由について、詳細に説明する必要があります。
5. 現地ヒアリング
申請内容に基づき、JBEが問い合わせや現地でのヒアリングを行うので、随時対応します。
6. 認証・登録
独立した第三者委員会により審査が行われ、結果に応じてJブルークレジットとして認証・登録されます。これにより、クレジットとしての取り引きが可能になります。

サスティナビリティ・コンサルティング事業を手がける当社では、Jブルークレジットの申請支援(現地調査・CO₂吸収量算定・申請書作成など)も行っています。2025年には、支援を行った「未来を担う人材を育てる佐賀県唐津湾ワカメ養殖体験プロジェクト」がJブルークレジットに認証・登録されました。Jブルークレジットの認証に興味のある方、申請にあたりご不明な点のある方は、お気軽にご相談ください。
>>ブルーカーボン・サービスのご紹介(PDF)
クレジット購入の流れ
Jブルークレジットを購入する方法は2種類あります。
- 公募取引:JBEによる公募に参加する
- 相対取引:クレジットを創出した企業から直接購入する
ここでは、公募取引の手順を説明します。当社も2023年度の第1回公募に参加してJブルークレジットを購入しました。
1. 公募内容の確認
まずはJBEのWebサイト上で、公募の要綱を閲覧します。公募対象であるクレジットの内容について、以下をはじめとする点を確認しておきましょう。
- 応援したい地域で行われた事業であるか
- 応援したいと思える事業内容であるか
- 価格が予算に見合っているか
- 購入したい量のクレジットが確保されているか
2. 購入申込意向の表明
購入したいクレジットが決まったら、メールに必要事項を記載してJBEに送信します。審査を経て、申し込みに必要な書類が送付されます。
3. 購入申込
購入申込書を作成しメールで送付することで、正式な申し込みとなります。原則として、購入申込意向の表明から2週間以内に行う必要があります。
4. 購入代金の支払い
請求書がPDF形式で送信され、譲渡契約が成立します。指定の期日までに代金を支払ったあと、Jブルークレジットの購入証書が発送されます。

日本におけるブルーカーボン・クレジットの事例
最後に、日本におけるブルーカーボン・クレジットの事例を紹介します。
横浜市
Jブルークレジットに先立ち、横浜市は2016年~2023年、世界初のブルーカーボン・クレジット認証取引制度「横浜ブルーカーボン」を展開していました。地元の企業や団体によってクレジットが創出・購入されることで、地元における企業活動やイベントに伴うCO₂排出量の一部がオフセットされました。
東京ガス
東京ガスグループは、Jブルークレジットの創出と購入の両方に携わっています。
東京ガスグループの連携するNPO法人「海辺つくり研究会」などが申請した「多様な主体が連携した横浜港における藻場づくり活動」が、2021年度にJブルークレジットとして認証されました。東京ガスはそのクレジットを購入することで、「東京ガス横浜ショールーム」におけるCO₂排出量の一部をオフセットしました。
このように、自社が関わる環境保全活動からクレジットを創出し、購入することで、カーボンニュートラルを推進していくことも可能なのです。
日本製鉄
日本製鉄株式会社は、製鉄の副産物である「鉄鋼スラグ」を活用して藻場を再生させる「海の森づくり」を2004年から推進しています。海藻の生育には鉄分が必要なため、鉄鋼スラグから生成したユニットを設置することで、藻場の造成を促進できるのです。
2025年には、日本製鉄と増毛漁業協同組合による「北海道増毛町地先における鉄鋼スラグを用いた藻場造成」がJブルークレジットとして認証されました。自社の事業をCO₂排出量削減に活かす事例として、ぜひ参考にすべき取り組みの1つです。
まとめ
ブルーカーボン・クレジットは、生態系の保全につながるだけでなく、カーボンオフセットによって自社のCO₂排出量を減らせるというメリットがあります。日本はJブルークレジット制度が整備されており、取り組みやすい環境だといえるでしょう。
ただし、Jブルークレジットの創出にあたっては、現地調査や吸収量算定、書類作成などで専門的なノウハウやマンパワーが求められるため、自社だけで完結させるのは容易ではありません。
当社は、藻場や干潟の造成・再生活動の計画立案から、吸収量の調査・算定、Jブルークレジットの申請・認証取得まで、ブルーカーボンに関する取り組みをトータルで支援しています。ブルーカーボン・クレジットの活用を検討している方は、ぜひお気軽にご相談ください。
>>ブルーカーボン・サービスのご紹介
執筆者:吉原
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