プラスチック資源循環法と企業の情報開示
はじめに
プラスチックは私たちの便利な生活に欠かせない存在ですが、その大量生産と廃棄による環境への影響が深刻化しています。この問題に対応するため、世界各国で3R(リユース、リデュース、リサイクル)に関するプラスチック法が導入され、日本でも2022年4月2日、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(通称:プラスチック資源循環法(プラスチック新法)」が施行されました。この法律は、プラスチック使用後の廃棄物をめぐる環境の変化に対応しながら健全な発展に寄与することを目的とし、3R+Renewable、つまりプラスチック使用製品廃棄物の自主回収や再商品化、再資源化を促進しています。この法律により企業は、プラスチック使用製品分別や再資源化に努める責務があり、また、消費者を含めてプラスチック使用製品をなるべく長期間使用すること、プラスチック使用製品を分別廃棄すること、再資源化で得られたものを使用することとなっています。また、企業や自治体などの気候変動や温室効果ガス排出削減に向けた戦略や取り組みを評価し、全世界に情報開示するCDPの水セキュリティにも2023年度よりプラスチックに関する設問が追加されました。
本記事では、プラスチック資源循環法施行への対応とCDPでのプラスチックに関する情報開示に向けた追加的な対応ついて解説していきます。
プラスチック資源循環法の概要
プラスチック資源循環法は、企業、自治体、消費者を対象としたもので、プラスチック使用製品の設計からプラスチック使用製品廃棄物の処理まで、プラスチックのライフサイクルにおける資源循環の取り組みを促進するための法律です。海洋プラスチックごみ問題、気候変動問題、諸外国の廃棄物輸入規制強化へ対応するため、2021年6月に成立し、2022年4月より施行されています。企業に対しては、技術水準、安全性、機能性、経済的な状況などに配慮しながらプラスチックの使用を減らすこと(Reduce)、再利用すること(Reuse)、必要不可欠なプラスチックの使用についてより持続可能性が高まることを前提に、再生可能性の観点から再生素材や再生可能資源(紙・バイオマスプラスチックなど)に適切に切り替えること(Renewable)、徹底したリサイクルを実施すること(Recycle)、それが難しい場合には熱回収によるエネルギー利用を図ることを促進しています。
この法律で企業に求められる役割は以下の3つです。
① プラスチック資源循環法にあるプラスチック使用製品設計指針に則してプラスチック使用製品を設計すること
製品設計において、製品のプラスチックの使用量の削減やプラスチックに代替する素材の活用を求められています。指針に即した設計ができる事業者は設計認定を受けたプラスチック使用製品製造事業者など(認定プラスチック使用製品製造事業者など)として認定を得ることができ、指針に則した設計がなされているプラスチック製品については、設計認定に係るプラスチック使用製品(認定プラスチック使用製品)と呼ぶことができます。
② プラスチック使用製品の使用の合理化やプラスチック使用製品廃棄物の排出を抑制すること
製品の製造・販売工程において、製品のプラスチック使用量の削減やプラスチックに代替する素材の活用を求められています。また、事業者は認定プラスチック使用製品の調達促進が求められています。
③ 自ら製造・販売したプラスチック使用製品の自主回収・再資源化
プラスチック使用製品の製造または販売をする事業者による使用済プラスチック使用製品の自主回収および再資源化を率先して行うことが求められています。さらに、環境の保全にどう影響するのかを含めたプラスチック資源循環の意義の知識を普及することが求められています。
プラスチック資源循環法に基づく認定制度
「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」に基づき、「再商品化計画の認定」、「製造・販売事業者等による自主回収・再資源化事業計画の認定」、「排出事業者等による再資源化事業計画」の3種類の認定制度が設けられました。このうち、「製造・販売事業者等による自主回収・再資源化事業計画の認定」と「排出事業者等による再資源化事業計画」が企業に対する認定制度であり事業者の責務(努力義務)として、認定を受けることが推奨されています。
また、これらの認定を取得すると、自主回収・再資源化事業について、廃棄物処理法に基づく事業の許可が不要となり、地方公共団体ごとに許可を受けずに、本制度の認定を受けることで自主回収・再資源化事業が可能となります。事業者が関連する制度について以下で解説します。
・製造・販売事業者等による自主回収・再資源化事業計画の認定制度
この認定は自ら製造、販売、サービス提供の際に付随して提供する企業が、使用済みのプラスチック使用製品となったものを、自主回収(収集、運搬を他社に委託する場合も含む)・再資源化事業を行う際に、自主回収・再資源化事業計画書を提出し、大臣の認定の申請をすることができます。
図 自主回収・再資源化事業のスキーム
出典:プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律に係る 製造・販売事業者等による自主回収・再資源化事業計画 認定申請の手引き(1.0版)
・排出事業者等による再資源化事業計画の認定制度
この制度の対象は、①自らが排出するプラスチック使用製品について再資源化事業を行おうとする事業者、②複数の事業者の委託を受けて、プラスチック使用製品について再資源化事業を行おうとする事業者です。上記①の者が再資源化事業計画を申請し、国の認定を受けることを「一号認定」といい、上記②の者が再資源化事業計画を申請し、国の認定を受けることを「二号認定」といいます。再資源化事業計画の認定を受けようとする者は、計画を提出することで大臣の認定を申請することができます。認定後は、毎年6月30日までに、前年度の再資源化事業の実施の状況を大臣(経産大臣・環境大臣)に報告することとなります。
図 一号認定および二号認定の申請者
出典:プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律に係る 排出事業者等による再資源化事業計画認定申請の手引き(1.0版)
また、再生プラスチック・バイオプラスチックなどに関する技術実証や設備導入については、2種類の補助制度が設けられています。補助制度について以下で解説します。
・脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業
この事業は、化石資源由来の素材からバイオマス・生分解性プラスチック、CNF(セルロース・ナノファイバー)、紙などの再生可能資源への転換に対して、もしくは、従来リサイクルが困難であったプラスチックなど素材に対するリサイクル技術・システムの高度化を図る技術開発やプロセス検証に対して実証に必要な経費の1/3~1/2を上限に補助する制度です。
・脱炭素社会構築のための資源循環高度化設備導入促進事業
この事業は、国内におけるプラスチック循環利用の高度化・従来の化石資源由来プラスチックを代替する再生可能資源由来素材(バイオマス・生分解プラスチック、セルロースなど)の製造に係る省、CO₂型設備を導入する事業に要する経費に対し、中小企業は1/2、その他企業は1/3を補助する制度です。
プラスチックに関する情報開示とCDP
CDPは、企業の環境に関する情報開示を促進する国際的なイニシアチブで、機関投資家などが企業のサステナビリティへの対応評価の参考にしています。毎年企業が自社の環境に対する取り組みや配慮に関して回答し、CDPによる採点・評価を受ける仕組みですが、今年度(2023年度)から、水セキュリティの質問票に、プラスチックに関する項目が追加されました。回答の対象となる企業は、プラスチックを使用、生産、商品化するすべての企業です。目的は、プラスチックが環境や社会に与える影響、プラスチック関連のビジネスリスク、そしてプラスチック汚染を減らす方法を理解することとされており、CDPの回答を通じて開示された情報の正確性と徹底性、リスクの評価や管理方法、期限のある目標を設定し行動を起こしているか、バリューチェーン全体で収益におけるプラスチックの役割を関連付けて認識していること、が評価対象となっています。
CDPのプラスチックでは、プラスチックと事業の関連、環境への潜在的な影響・事業へのリスク評価、プラスチックに関する目標と目標達成に向けた活動内容、現在のプラスチック製品生産・使用量が問われており、プラスチック資源循環法への取り組みだけでは回答ができない項目があります。プラスチックへの取り組みをより効果的に行うためには、CDPが求める事業との関連性およびリスク評価を行った上でプラスチック資源循環法への取り組みを行うことが重要です。
まとめ
- 2022年4月より企業および自治体を対象にプラスチック資源循環法が導入され、プラスチック製品の企画・製造段階から販売の自主回収や再資源化を考慮した設計がより強く求められるようになった。
- 特に企業は、プラスチックの自主回収および再資源化に関する取組みに対して認定制度が設けられている。
- CDPの質問票においても、バリューチェーン上におけるプラスチックの製造や使用の状況、環境や社会に与える影響、リスク評価と管理、今後の目標などが新設項目として追加された。
- プラスチックに関する認識と情報開示の要求が、今後も厳しくなってくると予想される。
※本インサイトでは、プラスチック資源循環法の概要および認定制度の一部、またCDPのプラスチックに関する項目の一部を紹介いたしました。CDPの「プラスチック情報開示に関するテクニカルノート(英語)」はこちらで閲覧可能です。また、弊社は、環境の専門家によるCDP回答に関するサポートサービスも提供しております。ぜひご相談ください。
※現時点での当社の見解であり、情報の正確性や完全性を保証するものではありません
執筆者:霜山竣、中野晴康
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