CDP水セキュリティ2022質問書の変更点概要と回答時のポイント

catch-img

気候変動への対応に続き、最近では、渇水や水質汚染、水害などの水リスク対策に取り組み始めている企業も多いのではないかと思います。皆様の企業では、自社の水への取り組みについて、適切な情報開示ができているでしょうか?

CDPは、企業の気候変動や水、森林分野におけるリスク・機会の特定や目標設定、ガバナンス体制の整備状況等を評価・情報開示する格付け機関の1つです。サステナビリティへの関心が世界的に高まっている今、ESG投資において、CDPによる格付けの存在感は年々増しています。

また、CDP水セキュリティ質問書の格付けは、企業が自社の水リスクマネジメントのレベルを把握し、今後の取り組みを見直すきっかけとしても活用することができます。したがって、ESG投資における企業価値の向上に加えて、自社の水リスクへの取り組みレベルを向上させるといった観点でも、CDP質問書への回答は非常に重要です。

その一方で、質問書の内容は毎年のアップデートによって企業への要求レベルが上昇する傾向にあり、回答に課題を感じている方もいるのではないかと思います。そこでこの記事では、CDP水セキュリティ2022の変更点概要および回答時に役立つポイントについてご紹介します。

企業を取り巻くサステナビリティの動向

気候変動の影響が世界各地で顕在化し始めているなか、2021年にイギリスで開催されたCOP26では、2015年のパリ協定で言及された「1.5度目標」(産業革命以前と比較した場合の気温上昇幅)が改めて強調されました。これまで以上に世界からの関心が高い会議となったことから、今後、気候変動への取り組みが世界で加速するものと考えられます。

また、日本国内においても、東証市場の再編に伴って東証プライムに属する企業は、「TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示」が義務化されます。したがって、企業は洪水や干ばつをはじめ、利用可能な水量や水質の変化などの「水リスク」を含む気候変動への対応と情報開示が問われるようになります。

東証市場は2022年以降、プライム、スタンダード、グロースに再編され、プライム上場企業はTCFDに基づく情報開示の必要がある

図1. 東証市場の再編イメージ

さらに、2022年にはSBTNが自然資本利用に対する目標設定のガイダンスの公開を予定しているほか、TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures ※)では自然と生物多様性に関わる情報開示のフレームワークの試行が計画されるなど、水に関わる新たなフレームワークの導入が見込まれています。

このような動きによって自然資本への関心度が高まるなか、投資家等にとっても企業価値評価の指標として、企業の「水リスク」への対応状況はもはや無視できないものとなっています。そのため、企業は環境の変化に対応し、経営の安定性を確保するという目的に加えて、投資対象としての価値を向上させるといった意味でも、水リスクを考慮した事業活動と投資家を含む様々なステークホルダーへの適切な情報開示が重要といえます。

※ 自然関連財務情報開示タスクフォース。TCFDに続く市場主導の新たなイニシアチブであり、「企業の自然資本と生態系サービスに関連するリスクと機会を適切に評価できるようにする」ことを目的とした情報開示フレームワークの構築を目指す

CDP水セキュリティについて

CDPはイギリスのNGOであり、質問書を通して企業の環境への取り組み状況を評価し、情報開示を行う外部格付け機関です。開示企業数は世界で年々増加しており、世界で13,189社に上ります。このうち、2021年における最も取り組みが進んだ位置づけであるAリスト企業数は、水セキュリティおよび気候変動の分野において日本が世界トップとなるなど、多くの日本企業が高い評価を得ています。

CDPに回答した累計企業数。2003年の228件から、2021年は13189件まで増えた

図2. 開示企業数の推移
出典:CDP公式サイト

CDP水セキュリティの質問書では、WWF(※1)で推進されているウォータースチュワードシップ(※2)の行動規範に基づき、取水や排水等の水量や水質、水害など、企業のさまざまな水リスクへの取り組みを多面的に評価する内容となっています。質問書はTCFD等のサステナビリティに関する主要なフレームワークに関連してアップデートされており、企業への要求レベルは年々上昇する傾向にあります。

※1 World Wide Fund for Nature(世界自然保護基金)。「Water Stewardship Revisited」(2018)にてWater Stewardship(自社の操業に関わる水の管理に留まらず、積極的に地域の水への責任を行動に移すことを企業に推奨するもの)について解説している

※2 企業の水リスクマネジメントにおいて、「地域における水課題や自社への影響を把握し、リスクの高い課題に対し目標を設定したうえで、自社での対策とその進捗管理を行い、最終的にはステークホルダーとの協同やガバナンスへの働きかけを通して地域の水課題解決を目指す」というステップを推奨している

CDP水セキュリティ2022質問書の変更点概要

CDP水セキュリティ2022質問書では、2021年の内容から新規設問が4つ追加され、また、質問内容の修正が10問となっています。

表1. CDP水セキュリティ質問書における評価の観点と変更点概要

CDP水セキュリティにおける評価の観点

2021年質問書からの変更点

W0

イントロダクション

W0.3W0.7

W1

現在の状態

W1.3

W2

事業へのインパクト

W2.1a

W3

手順

W3.3a

W4

リスクと機会

W4.2、W4.2a

W5

施設レベルの水報告

W5.1a

W6

ガバナンス

W6.2dW6.3

W7

事業戦略

W7.3W7.3aW7.5

W8

目標

W8.1a

W9

検証

-

W10

最終承認

-

赤字:新規設問 黒字:質問内容の修正 細字:マイナーチェンジ
※ CDP水セキュリティ2021から削除された質問およびガイダンスの変更点は除く
CDP Scoring Methodology Changes: 2021 to 2022」をもとに当社作成

今回新たに導入された設問では、水の利用効率(W1.3)、水に関する専門知識を有した役員の有無(W6.2d)および水への影響が少ない製品/サービスの有無(W7.5)が問われるようになりました。

W1.3の水の利用効率は、SGDs指標6.4.1「Change in water-use efficiency over time」に基づいて「総取水量あたりの収益」を指し、自社の水利用効率を把握することで、コスト削減や新たな製品/サービス開発等の企業活動を促す目的で導入されたものと考えられます。

W6.2dの設問は、持続可能な水資源の利用に向けて、表面上の活動ではなく、より本質的な取り組みが企業に求められていることを示すものと捉えることができます。回答にあたっては「水に関する専門性」を評価するための基準を設定する必要があります。

W7.5の設問は、自社内における節水等の活動だけでなく、例えば消費者が製品を使用する段階など、バリューチェーン全体での水への負荷低減の取り組みが重要であるといった考え方が反映されたものと考えられます。ここでも、回答の根拠となる基準や閾値等を回答できるようにしておくことが求められます。

しかしながら、2022質問書の変更点に対しては、現時点でCDPから採点基準が公開されていないため、今後のリリースについて動向を注視していく必要があります。

CDP水セキュリティ回答のポイント

CDP水セキュリティの質問書は、企業の水リスクへの対応状況を採点基準に則って評価するものです。したがって、ポイント獲得やスコア向上を目指すためには、社内での水マネジメントの取り組みをより進めていくということが前提となります。なお、自社の取り組みとスコアに大きな差異がある場合は、「採点基準に則った回答ができているか」、「Aリスト選定基準を満たしているか」を改めて確認する必要があります。

CDP水セキュリティで問われる内容はウォータースチュワードシップの行動規範に基づいているため、スコアは企業の水リスクマネジメントのレベルを示す指標として活用することもできます。したがって、CDPの設問を水リスクマネジメントフローに落とし込み、自社の取り組み状況について一度整理をすることで、どの設問にどのような活動を回答すべきかが明白になると同時に、自社の取り組みが不足している点を把握し、今後の活動を見直すきっかけにもなります。

CDP水の質問はウォータースチュワードシップの行動規範に基づいている

図3. 水リスクマネジメントフローとCDP水セキュリティ設問の関連

さいごに

CDP2022質問書では、気候変動の質問書に生物多様性の内容が追加され、さらに、金融セクターにおいては森林と水セキュリティの新たなモジュールが導入されるなど、分野の拡大や既存カテゴリーの統合が進んでいます。また、2022年1月19日に開催されたCDP Aリストアワードでは、CDPの活動領域を海洋や食料、資源等に拡大していくとの今後の方針や、CDP2022から気候変動質問書の日本の調査対象をこれまでの500社からプライム市場上場企業(全1,841社)に拡大することが言及され、水セキュリティに限らず、企業に求められる取り組みの領域や要求レベルはより高まっていくものと予想されます。

すでにCDPへの情報開示をされている企業の方も多いかと思いますが、CDPへの回答をきっかけに、今後の取り組みの方向性について改めて検討してみてはいかがでしょうか?

まとめ

  1. 近年、世界・国内的にもサステナビリティへの取り組みが加速しており、自然資本に対する関心度も高まっている背景から、水リスクへの対応が企業にとって必須となる
  2. CDP水セキュリティ2022質問書では、新規設問として水の利用効率や水に関する専門性を持つ役員の有無、水への負荷が少ない製品/サービスの有無等を回答することが求められているが、対応にあたっては採点基準の公表についてCDPの今後のリリース動向を注視する必要がある
  3. CDP水セキュリティの質問はWWFのウォータースチュワードシップの概念に紐づいているため、回答のポイント・今後の活動を見直すきっかけとして、自社の取り組みそのものを水リスクマネジメントフローに落とし込んで整理することが重要

※ 2022年2月時点での当社の見解であり、情報の正確性や完全性を保証するものではありません

執筆者:柳沢 早紀

関連記事

ニュースレター登録

人気記事ランキング

タグ一覧