ランドスケープアプローチとは? 環境省とTNFDが注目する新手法

catch-img

近年、生物多様性の劣化や、自然資本に依存した産業・文化への打撃が国内外で生じています。このような状況を鑑み、自然資本に関する情報開示だけでなく、ステークホルダーを巻き込んで実効性のある取り組みを推進する必要性を感じている方も多いのではないでしょうか。

ステークホルダーと共同で環境に取り組む手法として注目されているのが「ランドスケープアプローチ」です。この記事では、ランドスケープアプローチの基本情報とともに、ランドスケープアプローチが注目されている背景や国内外での事例を紹介します。

ランドスケープアプローチとは

環境省によると、ランドスケープアプローチとは「一定の地域や空間において、主に土地・空間計画をベースに、多様な人間活動と自然環境を総合的に取り扱い、課題解決を導き出す手法」(環境省 2023)です。地域における土地利用を望ましい状態に近づけるための、自然環境保全だけでなく文化的・経済的活動も含んだ総合的な取り組みといえます。

そもそもランドスケープとは、「風景」「景観」といった意味を持つ言葉です。ランドスケープアプローチの文脈では、人と自然環境が織り成す風土や空間を指します。

例えば、林業などを通じて森林に適度な介入を行うことで、豊かな生物多様性が維持され、地域の観光資源としても活用されます。このように、人と自然の関わりによってシナジーがもたらされる取り組みが、ランドスケープアプローチです。反対に、特定の生物を保全する取り組みや、自然環境がもたらす経済的利益だけに着目した取り組みは、ランドスケープアプローチに当てはまりません。

ランドスケープアプローチとは、一定の空間において多様な人間活動と自然環境を総合的に扱い課題を解決する手法である

ランドスケープアプローチの考え方

ランドスケープアプローチには、いくつかの重要な考え方があります。ここでは、代表的なものを3つ解説します。

順応的管理

順応的管理とは、予測が外れることを考慮し、モニタリングを行いながらその結果に合わせて対応を変えていくことです。

多様な生物種やステークホルダーを包括するランドスケープは、さまざまな要素が複雑に関与し合っているため、ランドスケープアプローチの結果を予測することは困難です。そのため、まずは課題に対してアプローチし、その結果をモニタリングしながら次のアプローチを決定することが重要とされています。

ランドスケープの多機能性

ランドスケープは、さまざまな機能を有している(多機能性)のが特徴です。例えば、森林には以下のような機能があります。

  • 生物多様性保全
  • 地球環境保全
  • 土壌保全
  • 水源涵養
  • 物質生産 など

木材生産をはじめとする物質生産機能の過剰利用は、他の機能の低下につながるといったトレードオフの関係が生じることもあります。反対に、森林管理を適切に行えば、生物多様性向上や土砂災害防止といったシナジーを得ることが可能です。

ランドスケープアプローチでは、ランドスケープの多機能性を前提とし、トレードオフの最小化とシナジーの最大化を図ることが要求されています。

マルチステークホルダーによる取組み

マルチステークホルダーによる取り組みとは、以下のように多様なステークホルダーが協働することを指します。

  • 地域住民
  • 先住民
  • 企業
  • 自治体 など

ランドスケープアプローチでは、あらゆるステークホルダーのニーズを認識し、土地や生態系サービスの公平な利用を目指します。そのためには、すべての主要なステークホルダーが議論やランドスケープ管理に参加すべきだとされているのです。

ランドスケープアプローチでは、人と自然が関わることによるシナジー創出を目指す

ランドスケープアプローチが注目される背景

ランドスケープアプローチに注目が集まるようになったきっかけとしては、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)や環境省による言及が挙げられます。

TNFDによる言及

2025年11月、国際的イニシアチブであるTNFDは、自然に関する移行計画の策定を支援する「自然移行計画ガイダンス」を公開しました。同ガイダンスでは、「エンゲージメント戦略」の1つとして、「ランドスケープ単位での関与」が言及されています。

TNFDは、先住民や地域社会を含む多様なステークホルダーとの連携を通じ、自然への依存と影響、自然に関するリスクおよび機会を把握・管理することを重視しています。ランドスケープアプローチであれば、複数主体の関与が前提であるため、ステークホルダーとの協働を促進することが可能です。また、生物多様性だけでなく地域の社会課題もスコープに含めるため、地域のリスクと機会に全体的な対処を行うこともできます。

ランドスケープアプローチは、TNFDが重視する「マルチステークホルダーエンゲージメント」を実践するうえで有効な手段なのです。

TNFDの「自然移行計画ガイダンス」を構成する5つの戦略。そのうち「エンゲージメント戦略」でランドスケープアプローチが言及されている。

「自然移行計画」を構成する5つのテーマ
(TNFD『Guidance on nature in transition plans』をもとに当社作成)

環境省による言及

日本国内では、「生物多様性国家戦略2023-2030」における基本戦略の1つ「ネイチャーポジティブ経済の実現」に向けて環境省が策定した「ネイチャーポジティブ経済移行戦略ロードマップ(2025-2030年)」内で、ランドスケープアプローチが言及されています。このロードマップは、ランドスケープアプローチを通した企業と自然資本のつながりの強化や、地域における自然資本の価値の共有を目指すものです。

環境省は「令和7年度ネイチャーポジティブ地域づくり支援モデル事業(通称:ランドスケープアプローチの実践事業)」を採択し、取り組みの支援も行っています。

「生物多様性国家戦略2023-2030」と「ネイチャーポジティブ経済移行戦略ロードマップ(2025-2030年)」の関係を示す図。ロードマップ内でランドスケープアプローチが言及されている。

「ネイチャーポジティブ経済移行戦略ロードマップ(2025-2030年)」の位置づけとロードマップにおける重要な視点
「ネイチャーポジティブ経済移行戦略ロードマップ(2025-2030年)」をもとに当社作成)

ランドスケープアプローチの事例

最後に、国内外におけるランドスケープアプローチの事例を紹介します。

黒部川流域

黒部川ネイチャーポジティブ・プロジェクト」は、黒部川(富山県)流域の自治体、企業、研究者、NGO、地域住民で構成される「黒部川ネイチャーポジティブ検討会」が中心となってネイチャーポジティブの実現を目指す活動です。ランドスケープアプローチに基づく自然資本の管理に向け、

  • 環境DNAなど科学的手法を用いた生態系調査
  • 流域全体における自然資本の評価・保全・再生
  • 地域文化や資源を活かした持続可能な地域づくり

などに取り組んでいます。

「黒部川ネイチャーポジティブ・プロジェクト」は「ランドスケープアプローチの実践事業」に採択されており、全国初となる「流域ネイチャーポジティブ宣言」の発出を目指すものです。当社はこのプロジェクトを支援しており、自然環境分野における知見を活かした自然体験プログラムの実施や勉強会における講演などを通して、黒部川流域におけるネイチャーポジティブの実現に貢献しています。

ヴァッハウ渓谷

豊かな生物多様性や独自の文化を有するヴァッハウ渓谷(オーストリア)での取り組みも、ランドスケープアプローチの一例です。世界文化遺産であるヴァッハウ渓谷は、段々畑でのブドウ生産で有名ですが、耕作放棄地の増加とそれに伴う生物多様性の劣化が問題となっていました。解決のため、以下のような活動が実施されています。

  • 急勾配であるなど、耕作困難地域の農家に対する経済的支援
  • 生物多様性に寄与する、伝統的な乾式石積みによる石垣整備支援
  • 住民参加型の自然保護活動(草原の管理、外来種の除去、在来種の植栽など)

自然と人間活動が密接に関わり合うヴァッハウ渓谷では、両者を包括的にとらえるランドスケープアプローチが効果的だといえるでしょう。

ランドスケープアプローチが行われているヴァッハウ渓谷

さいごに

ランドスケープアプローチは、地域の多様なステークホルダーとともに、自然環境と地域社会に対し多角的に働きかける手法です。ただし、ランドスケープアプローチによる環境保全効果を正しく評価するには、自然資本を観測・解析する技術が必要とされます。

当社は、生物多様性や水源涵養能といった自然科学の専門性に加え、サステナビリティ情報開示についても最新の知見を備えています。ランドスケープアプローチを含め、自然資本に関する課題解決にご興味のある方は、お気軽にご相談ください。

また、当社のnoteでは、コンサルタントが黒部川流域でのランドスケープアプローチに携わった報告も公開する予定です。そちらもあわせてご覧ください。

執筆者:今村 百花

関連記事

ニュースレター登録

人気記事ランキング

タグ一覧