企業における水害リスクマネジメント

ここ数年、日本では気候変動の影響等により大規模な水害が多発しています。この記事をご覧になっている方の中にも、過去の水害により工場や物流などが被害を受け、事業への影響が生じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
日本は、世界平均に比べて降水量が多く、梅雨や台風時期に特に集中して降雨が発生します。また、日本の河川は非常に急勾配であるため、雨が降るとすぐに河川に水が集まりやすいといった特徴をもっています。こういった気象や地形的な特徴から、日本は水害リスクが高いと言われています。
国土交通省が公表した「水害レポート2020」によると、近年、時間雨量50mmを超える降雨の発生回数が10年間で1.4倍となっており、今後、水害のさらなる頻発化・激甚化が懸念されています。
この記事では、水害リスクの高い日本において、民間企業に求められる水害リスクマネジメントについて、日本の河川整備の状況を踏まえながらご紹介します。
※ 一般的に津波は水害に分類されませんが、この記事では便宜上、津波を水害に含めています
日本の河川整備の現状
日本では、国や県が管理する河川において、中・長期的な目標である「河川整備基本方針」や「河川整備計画」を定める必要があります。一般に国が管理する河川では、「河川整備基本方針」において、1/100~1/150年の規模の洪水をダムや河川で安全に流下できるような長期的な方針を策定し、「河川整備計画」では、1/30~1/80年の規模の洪水を想定し、今後30年程度で整備が完了するような中期的な計画を策定しています(図1)。

図1. 河川整備基本方針・河川整備計画の概要
しかしながら、近年、大きな被害をもたらした洪水の規模は、長期的な目標である「河川整備基本方針」で想定されている計画規模に迫る、または上回るものであったため、当然、現状の河川整備では洪水による被害を抑えきれませんでした。記憶に新しい令和元年に発生した台風19号では、観測史上最多の記録的な大雨となったことから、極めて広範囲にわたり河川の氾濫が生じ、人的被害や家屋の倒壊、インフラの断絶等、極めて重大な被害が生じました(図2)。

図2.令和元年に発生した洪水の規模
「令和元年台風第19号による被害等」をもとに当社作成
「防災」ではなく「減災」という考え方
国土交通省では平成27年に「水災害分野における気候変動適応策のあり方」を発表しました。ここでは、激甚化する水災害に対応し気候変動適応策を早急に適応すべきとして、これまでの防災(災害を発生させない)という考え方から、減災(災害が発生することを前提として、壊滅的な被害が発生しないようにする)という考え方に移行したことを示しました(図3)。
また、「これまで通り河川整備は行っていくが、堤防等の施設では守り切れない事態を想定し、社会全体が水害リスク情報を共有し、施策を総動員して減災に取り組む」とも記されています。そのため、企業においても、災害が発生することを念頭に、自らが水害リスクを知り、マネジメントすることが求められています。
図3.「防災」から「減災」という考え方への移行
水害マネジメントの4STEP
日本の河川整備の状況や「水災害分野における気候変動適応策のあり方」を踏まえると、企業は自治体の河川整備が完了するのを待つだけではなく、自ら水害への対策を講じ、事業への影響を最小限に抑えていく必要があります。
以上を踏まえ、ここからは当社が考える水害マネジメントの4STEPについて簡単にご紹介します(図4)。

図4. 水害リスクマネジメントの4STEP
STEP1:水害リスクを知る
STEP1は“水害リスクを知る”ことです。
一口に水害リスクといっても、大河川からの洪水、中小河川からの洪水、内水氾濫(図6)、津波、高潮など様々です。大河川からの洪水や、高潮、津波は、国土交通省や各自治体がハザードマップを公表しており、どの程度浸水するのか(浸水深)やどれくらいの時間浸水が継続するのか(浸水継続時間)などが把握できます。
一方で、中小河川からの洪水や内水氾濫では、ハザードマップが整備されていない地域が多いため、気象情報や地形、洪水履歴等から判断する必要があります。定量的な評価を行う場合には、専門家に任せることも考慮に入れる必要があるでしょう。

図5.内水氾濫、外水氾濫の違い
出典:避難勧告等に関係する諸情報(洪水・浸水)の技術について
STEP2:事業への影響を診断する
STEP2は“事業への影響を診断”することです。
STEP1の結果から浸水深や浸水継続時間が評価されたかと思います。これにより、工場のどの設備が浸水し、どれくらいの損失が出てしまうのか、または、どれくらいの期間、営業を停止せざるを得ないのかなどといった観点から事業への影響を推算していきます。
STEP3:水害から施設を守る
STEP3は“水害から施設を守る”ことです。
工場施設の水害ハード対策として、防水壁の設置や施設の移設、耐水化などが挙げられますが、これらの対策にかかる事業費とSTEP2で推算された事業への影響を比較し、どの程度の規模の洪水に対応すべきか最適案を決定する必要があります。詳しい事例は、国土交通省の「浸水被害防止に向けた取組事例集」をご参照ください。
STEP4:水害時に対応する
STEP4は“水害時に対応する”ことです。
水害が生じた場合でも、操業を許容限界以上の状態で継続し、早期に復旧するため、水害を考慮した事業継続計画(BCP)を策定する必要があります(図6)。BCPを策定する上では、STEP2で把握された水害特有の事業への影響の把握や、対応が優先される重要業務の特定、およびBCPの発動条件(通常業務から緊急時対応への切り替え)や収束条件(緊急時対応から通常業務への切り替え)を決定する必要があります。
国土交通省によって、水害を考慮したBCP作成手引きが公開されているので、ぜひご参考ください。

図6.事業継続計画(BCP)の概念
出典:事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-
近年水害が多発する状況であっても、実際に被害を被るなど特別な要因がない限り、事前対応に動くのは重要な意思決定が必要です。このため、当社では浸水リスクをより具体的に「自分ごと化」できるよう、三次元可視化したツール「3DEYE」を開発しました(図7)。
スマートフォンでの表示にも対応しており、実際に現場で建物の浸水の状況を確認しながらBCPなどを検討できるのが特長です。お問い合わせいただいた方にはデモ版をご提供しておりますので、ぜひ直接ご確認ください。

図7.「浸水リスク 3DEYE」のデモ画像
また、当社では、上記STEP1~4の水害リスクマネジメントのご支援も行っております。お気軽にお問い合わせください。
最後に
企業の水害リスクマネジメントにおいて重要な視点を以下に示します。
- 自治体の河川整備の完了を待つだけではなく、企業自らが水害対策を実施する必要がある
- 「防災」ではなく「減災」という考え方を念頭にマネジメントする
- 拠点が持つ水害リスクを知り事業への影響を推算したうえで、ハード対策の実施や水害を考慮したBCPを策定する
執筆者:杉村 陸


