
事業部名:サステナビリティ・イノベーション本部 サステナビリティマネジメント部
担当者:M.F.さま
業種:電機・電子産業
連結従業員数:150,386名(2026年3月末現在)
相談の背景
TNFD開示の必要性は認識していたが、分析から開示までの全体像をイメージできなかった
導入の決め手
水リスク分析を依頼した実績があり、成果やパフォーマンスを信頼できた
支援の効果
ゼロからのスタートにもかかわらず、初年度から網羅性の高いTNFDレポートを公開できた
―― 当社にご依頼いただく前は、どのような課題がおありでしたか?
F TNFD開示の重要性・必要性は認識していたものの、各事業と自然資本との接点をどのように把握し、開示に結び付けるかの全体像が見えず、漠然とした大きな課題を抱えていました。
佐藤 事業領域が非常に広範であるため、どこまでを分析・開示の対象にするか、どの程度の粒度で行うかを自社だけで判断するのは、極めて難易度が高かったかと思います。
F はい。自社だけでは困難だと考え、伴走してもらえそうなコンサルタントを選定しました。
―― 数あるコンサルティング会社から、なぜ当社を選んでくださったのでしょうか。
F 何社か相談しましたが、最終的な決め手となったのは、以前に水リスク分析でご支援いただいた際の実績です。我々が認識していたリスクと、地球規模での発生が予測されているリスクとの関係が不透明だったのですが、非常にわかりやすく可視化していただきました。また、成果の公表後は、社外からの環境評価も明確に向上しました。
そうした目に見える成果に対する信頼があったからこそ、TNFD開示という難易度の高いテーマでもご支援をお願いしました。

三菱電機株式会社 M.F.さま
また、SBTNに沿った目標設定においての支援実績の多さも重要なポイントでした。 TNFDとSBTNの連動は今後、より強まっていくと考えています。御社であれば、目標設定のフレームワークであるSBTNと、開示のフレームワークであるTNFDの分析を、整合的に進められるのではないかと考えました。
―― TNFDレポート公開の反応はいかがでしたか?
F まず、社内でポジティブな反応がありました。事業所では以前から、ISOの観点で生物多様性保全などの活動に注力していました。従前からの活動とサステナビリティ戦略との繋がりがTNFDレポートで示され、現場の関心やモチベーション向上に良い影響があったように思います。
また、多くのメディアから取材のお申し込みをいただきました。我々のような電機・電子産業は、自然との接点が遠いと認知されているところがあります。だからこそ、評価分析を行ってレポート化したことに意外性を感じ、興味をお持ちいただけたようです。

当社コンサルタント 佐藤怜
―― 完成したTNFDレポートの特徴を教えてください。
佐藤 まず、TNFD開示の初回にしては網羅性が非常に高い点です。複数の事業を抱えている場合、一部の主力事業に限定して分析・開示することが多いですが、今回は9つの製品分野で開示を行っています。
中野 TNFDフレームワークにおける「4つの柱」と「一般要件」に照らし合わせ、どこまでの情報なら公開できるか擦り合わせつつ、同業他社と比べても網羅的に開示できたと考えています。
―― 網羅性の高い開示は、どのようにして実現したのでしょうか。
佐藤 事業領域が多岐にわたる場合、 全事業でいきなりLEAPアプローチ(※)を始めるのは現実的ではありません。そこで当社は、LEAPアプローチの前段階としてScopingのフェーズを実施しました。
売上や自然への影響が特定の事業に集中していることが明らかな場合は、最初からLEAPアプローチに入ることもあります。ですが、三菱電機さまのように多様な事業を展開している場合は、ぜひScopingを実施すべきです。
※ TNFD開示のフレームワークにおける、Locate、Evaluate、Assess、Prepareの4フェーズ
中野 9つの事業領域に対し、「売上の規模」や「データの収集難易度」といった複数の評価軸を設け、それぞれスコアをつけました。それに応じて優先順位を明確にし、「いつまでにどの事業を分析・開示するか」を3段階に分けた詳細なロードマップを策定しました。このように、最初から全体を網羅的に把握したうえで戦略的な優先順位付けを行ったことが、今回のプロジェクトにおける工夫の1つです。
―― ほかにはどのような工夫がありましたか?
佐藤 LEAPアプローチでは、先にEvaluateフェーズで重要な依存・インパクトを特定したあと、その情報に紐付く「優先地域」をLocateフェーズで特定しました。一般的にはLocateが先とされていますが、Evaluateを最初に行うことで、事業全体の依存・インパクトを俯瞰し、そのうえで優先度の高い領域に絞ったLocateの掘り下げが可能になります。これは当社の分析の特徴です。
優先地域を特定する際も、地域の状態だけでなく、拠点が地域に与えているインパクト(取水量など)も考慮しました。
全般的には、ツールによる評価結果を事業実態に合わせて補正することも意識しました。LEAPアプローチのEvaluateフェーズでは「ENCORE」というグローバルツールが広く使われています。しかし、広範な業種を網羅するためにセクターの分類が粗く、一般的な平均値が出力されるため、結果が実態と乖離してしまう場合も少なくありません。
例えば、ENCOREだと半導体事業は「電子部品」というセクターに分類されています。半導体の製造過程では多くの水を使うものの、電子部品全般として評価されるために、ツール上では水へのインパクトが過小評価されてしまうのです。
地域の状態を評価する際も、ツール上で水質汚染リスクが「非常に高い」と表示される一方、実測データではそうでもない、ということが起こります。グローバルツールは、あくまで限られたデータから全世界について推定するので、どうしても解像度が粗くなる部分があります。
ですので、取水量やGHG排出量といった実際の事業データを使い、ツールの結果を補正しました。TNFDのタスクフォースメンバーも、Evaluateフェーズでは実態に合わせたデータ補正を推奨しています。
中野 ENCOREは、潜在的な依存とインパクトを示すスクリーニングツールとして設計されており、 実態に基づいて詳細に掘り下げることを推奨する旨は、公式サイトにも記載されています。
―― 今回のTNFDレポートでは、シナリオ分析も行われていますね。
佐藤 はい、それも特徴の1つです。TCFDと異なり、TNFDレポートでシナリオ分析(※)にまで踏み込んでいる企業は、まだ多くありません。
TCFDのフレームワークでは、「地球の気温が1.5℃上がった場合」「4℃上がった場合」のようなシナリオの例が共有されている一方、TNFDにはそれがありません。各企業が「将来の世界観」を想定し、その世界でどのようなリスクが起きるかを考える必要があります。TNFD開示で難しいポイントの1つです。
※ 将来について複数の状況(シナリオ)を想定し、それぞれの場合におけるリスクおよび機会を評価する手法
中野 今回は4つのシナリオを用いて評価しました。2つに絞る企業もありますが、TNFDガイダンスでは「生態系サービスの劣化」および「市場と市場以外の力の整合」という2軸で4象限のシナリオを考慮する例が挙げられているため、そちらに従いました。
ガイダンスの記述を三菱電機さまの事業に即して解釈し、4象限それぞれの世界観を具体化したうえで、リスクと機会を抽出しています。
F TNFD開示を先行して行っている他社でも、シナリオ分析を行っているところはあまり見られませんでした。その状況のなかで自然資本との関わりが強い業界の事例を見つつ、「我々の場合はどうだろう」とイメージしてはみたものの、自社だけで進めることは難しいと感じた部分です。
―― ほかに、TNFDレポートの作成で苦労したことはありますか?
F 評価・分析に使用する情報の収集で、非常に苦労しました。
従前より直接操業の範囲では、環境データを収集していますが、バリューチェーン全体となると、収集している情報はまだ限定的ですので、今回のレポートでは直接操業の範囲に開示を限定しました。
中野 とはいえ、データを丁寧に収集されている印象をもっています。先程のデータ補正の話につながりますが、補正しようと思っても、実際のデータをすぐに出せる企業ばかりではありませんから。
三菱電機さまの場合、水に関するデータが事業ごとに集計されていたため、追加情報の収集に膨大な労力をかける必要がありませんでした。

右:当社コンサルタント 中野晴康
―― 今後の展望について教えてください。
F 我々はマテリアリティ(重要課題)の1つとして「持続可能な地球環境の実現」を掲げています。生物多様性の保全や水リスクへの対応は、当社の事業活動継続に欠かせないものです。TNFD開示を含め、こうした活動を深化させていくことも、経営にとって重要だと認識しています。
中野 三菱電機さまは、経営方針としてサステナビリティを経営の根幹に据えられており、この方針が現場に落とし込まれているのを実感しています。環境に関する情報収集でもガバナンスが効いており、必要な情報が適切に収集されている印象です。
佐藤 サプライヤーへのアンケートを拡充されているなど、トレーサビリティ強化のスピードも印象的です。バリューチェーン上流の情報収集に課題を抱える企業が多いなか、早い段階で行動されているのが本当に素晴らしいと感じています。
F 今後は、SSBJやCSRDといったサステナビリティ情報開示の法令にも順次対応してまいります。
中野 SSBJ基準には将来的に、生物多様性に関する開示も盛り込まれることが予想されています。今回のTNFD開示が、SSBJ開示にも活用できると考えています。
―― TNFD開示に悩んでいる企業へのメッセージをお願いします。
F 自然資本の保全は、将来的な事業環境の変化を考えれば、無視できないテーマと認識しています。TNFDは、事業と自然資本の関係を整理し課題を把握し活動に繋げるための有用なフレームです。
しかしながら、TNFD開示は自社だけで完結できるものではないと思っています。サプライチェーン上のステークホルダーや第三者と情報交換しながら専門知識を蓄積し、開示に向けて進んでいくアプローチが非常に有効だと、今回のプロジェクトを通じて感じました。
これから開示に取り組む企業にとっては、論点の多さや前例の少なさから、ハードルが高いように感じられるかもしれません。自社だけで悩まず、外部の専門家の力を借りてみるのもよいのではないでしょうか。
佐藤 TNFD開示は、ガイダンスの解釈余地が大きく、「これを使わないといけない」と決められたツールや手法もありません。だからこそ、簡易的な分析に留まらず、事業実態に沿った形にデータを落とし込めるかどうかが、開示の質を左右します。
私たちのようなコンサルタントを上手に活用いただきながら、貴社らしい開示を一緒に作っていければと考えています。
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