GHGプロトコルの「水リスク版」が登場? 「Water Scope 1~3」で日本企業も水リスク管理に本腰を入れるか

catch-img

企業のサステナビリティ対応においては、「脱炭素」だけでなく「水リスク管理」も重要なテーマです。しかし、GHG排出量の算定・報告にはGHGプロトコルという国際基準が存在する一方で、水リスクについては共通の基準がないため、「どのような情報を収集・開示するか」の判断が難しく、企業にとって取り組みのハードルが高い状態でした。

そのような状況下で発表されたのが、バリューチェーンにおける「水リスク」を評価・管理する標準ガイダンスの開発です。このガイダンスにおいては、GHGプロトコル同様に「Scope」の概念が採用される見込みです。

この「Water Scope」とは、具体的にどのような内容なのでしょうか? 新たなガイダンスの登場によって、サステナビリティ担当者の業務はどのように変わるのでしょうか?

水リスクへの対応に取り組んでおられる方は、ぜひお読みください。

※ この記事は、2026年5月時点の情報をもとに執筆しています

Water Scopeとは

Water Scopeとは、バリューチェーン全体における、水関係の依存、影響、リスク、機会を評価・算定するための区分です。GHGプロトコルにおける「Scope」の概念を踏襲することが見込まれており、例えば以下のように分けられる可能性があります。

Scope 1:自社が所有・運営する事業における直接的な水影響
Scope 2:購入したエネルギー使用に関連する間接的な水影響
Scope 3:バリューチェーンでの活動における間接的な水影響

Water Scopeのガイダンス開発は、2026年4月30日に発表されました。開発を主導するのは以下の4団体です。

  1. WRI(世界資源研究所)
  2. SCSグローバルサービス
  3. WWF(世界自然保護基金)
  4. CEOウォーターマンデート

WRIは、水リスク評価ツール「Aqueduct」、WWFは同「Water Risk Filter」の提供で知られています。こうした機関が開発に加わることで、Water Scopeのガイダンスには実務における活用性の高さが期待されます。

Water Scopeとは、バリューチェーン全体における、水に関する依存・影響・リスク・機会を評価・算定するための区分です。

画像の制作プロセスで生成AIを使用しています

Water Scopeガイダンスの特徴

4月30日に公表されたコンセプトノート「バリューチェーンにおけるWater Scope 1~3算定の企業ガイダンス」によると、ガイダンスは2つのセクションで構成される予定です。

第1部:評価と優先順位付け

ガイダンスの第1部では、バリューチェーンにおける水関連の依存、影響、リスク、機会(Dependencies, Impacts, Risks, Opportunities: DIROs)を評価し、優先順位を付ける手法が扱われます。具体的には、以下の内容が含まれる予定です。

  • バリューチェーンにおける水のDIROsを評価・優先順位付けする際の原則
  • SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」に合わせた指標(取水量、栄養塩負荷など)
  • Scope 1~3のようなバウンダリの定義
  • 既存のウォーターフットプリント算定ツールの解説 など

第2部:行動と報告

ガイダンスの第2部は、第1部の内容を土台として、水のバリューチェーンにおける実効的なアクションを加速させる役割を持つとされています。TNFDやCDP、AWSなどに対応しており、既存のフレームワークに基づいた情報開示業務に役立つことが期待されます。

具体的には、以下の内容を含む予定です。

  • バリューチェーン上の水リスクに関して行動を起こす際の原則
  • バリューチェーン上の水リスクに関する具体的な行動例
  • TNFDなど主要なフレームワークの要求事項に沿った、信頼性の高い開示方法
  • 第1部で評価したDIROsをCDP回答などに活用する方法

このように、Water Scopeのガイダンスは、水関連のDIROsを評価して開示に利用する手順を詳細に解説してくれるのはもちろん、「情報開示だけでなく保全のための行動を起こしたい」と考える企業にも、実効性のあるアドバイスを提供してくれるのです。

Water Scopeハイダンスの特徴:2つのセクションで構成される予定

画像の制作プロセスで生成AIを使用しています

Water Scopeガイダンス開発の背景

水リスク評価の標準ガイダンスがない

Water Scopeのガイダンスが開発される背景にあるのは、水リスクの評価や開示にあたって、統一された指標や用語の定義が欠けていることです。例えば、淡水の持続可能な使用を推進するNGO・Water Footprint Networkは、淡水を以下のように分類しています。

  • ブルーウォーター:表流水および地下水
  • グリーンウォーター:土壌に蓄えられたり、土壌や作物の表面に留まったりする雨水
  • グレーウォーター:汚染物質を環境基準まで希釈するために使われる水

この区分はISO 14046(ウォーターフットプリント)でも採用されている一方、TNFDの用語集はグレーウォーターを「食器洗い、船・飛行機の流し台、シャワー、洗濯、浴槽、洗面台の排水」と説明しています。言葉の意味が大きく異なるのです。

このように、イニシアチブ間で用語の定義が統一されておらず、DIROsの測定に関する考えも異なるため、企業にとっては取り組みのハードルが高いほか、企業間での開示を比較しにくいという、投資家にとってのデメリットも発生していました。

Water Scopeガイダンスが目指すのは、こうした不統一性の解消です。GHGプロトコルのような標準ガイダンスが普及することにより、企業が水リスクの評価に取り組むハードルが下がり、複数のフレームワークにおける開示が行いやすくなります。これによって、企業による水資源保全の取り組みが推進されることも期待できるのです。

バリューチェーン上での水リスク対策が不十分

「Scope」という概念が表すように、Water Scopeガイダンスは、自社拠点だけでなくバリューチェーン上での水リスクも考慮に入れることを求めています。自社拠点における取水量削減を行ったとしても、購入した製品の製造過程において大量の水が使われているかもしれません。

ガイダンス開発を主導するWRIのディレクター、サラ・ウォーカー氏らによれば、大抵のセクターにおいて、水に関する影響および機会は自社以外のバリューチェーン上で発生します。食品・飲料セクターでは作物の生産過程で、石鹸や洗剤といった消費財メーカーにとっては製品の使用過程で、といった具合です(WRI 2026)。

しかし、バリューチェーン上での水リスクを評価し、対策をとっている企業は多くありません。WWFは、「トレーサビリティ確保にもまだ課題が多く、原材料の調達地を特定する取り組みから開始する必要がある」段階の日本企業が多いとしています(WWFジャパン 2024)。

基準ガイダンスの開発によってWater Scopeの概念が普及すれば、バリューチェーン上の水リスクを評価する動きが活発になることが期待されます。GHG排出量と同様に、水を使いすぎているとみなされた企業は取引先から取水量削減を求められたり、調達先の選定から外されたりする可能性があるのです。

Water Scopeガイダンス開発の背景

画像の制作プロセスで生成AIを使用しています

日本企業は何をするべきか

Water Scopeガイダンスは、2026年4月に開発を宣言されたばかりで、2027年第4四半期での完成が目指されています。既に多くのイニシアチブではバリューチェーン上でのリスク評価が求められており、ガイダンスの公開を待たずに取り組みを進めておくのがよいでしょう。

例えば、TNFD開示では「上流と下流のバリューチェーンにおける」DIROsの特定・評価が求められていますし(TNFD 2023)、SBTNの淡水分野におけるガイダンスでは、自社拠点だけでなくバリューチェーン上流での目標も設定するよう指示されています(SBTN 2024)。

水リスクの評価にあたっては、以下のようなステップから始めてはいかがでしょうか。

  • バリューチェーン全体における「水との接点」を棚卸しする
    調達先(上流)~自社拠点~製品の使用先(下流)まで、どこで・どのように水が使われているか整理する
  • 重要な拠点・調達先の水リスクを把握する
    「Aqueduct」や「Water Risk Filter」を用い、水リスクの高い国・地域を特定する
  • CDP水セキュリティの回答内容を見直す
    回答が自社拠点に留まっていないか、バリューチェーンまで踏み込めているか確認する

バリューチェーン上のどこで水リスクが大きいかは、業種によって異なります。例えば食品メーカーの場合、輸入する小麦、大豆、パーム油、コーヒー豆などの生産過程で大量の水が使われています。他国の水資源に依存しているといえるのです。

このように、輸入した農産物や製品の生産に使われた水に関しては、「もしも国内で生産したらどれくらいの水が必要だったか」を表す「バーチャルウォーター(仮想水)」という概念があります。2005年における日本のバーチャルウォーターは約800億㎥で、国内の年間水使用量と同程度です(環境省)。

自社拠点で多くの水を使っている場合はもちろん、使用量が少ない企業もバリューチェーン上流で水資源に大きく依存している可能性がありますので、Water Scopeガイダンスの公開を待ちつつ、今のうちから水リスクの把握を進めておきましょう。

日本企業は何をすべきか

画像の制作プロセスで生成AIを使用しています

水リスクの専門家に相談する

当社は長年、水に関するコンサルティング・サービスを提供しており、多くの企業さまの水リスク対策を支援してまいりました。自社拠点での対策はもちろん、バリューチェーン上のリスク評価や、流域におけるウォーター・スチュワードシップ発揮を推進しております。

当社には、水資源の持続可能な利用を推進する国際NGO・AWS(Alliance for Water Stewardship)の認定資格者「AWS Credentialed Specialist」が在籍しており、日本で初めて「CDPウォーターコンサルティングパートナー」に認定された実績がございます。

グローバル基準での水リスク評価・目標設定をご支援できますので、自社拠点はもちろん、バリューチェーン上流・下流での水リスクに対応されたい方は、ぜひ一度ご相談ください。

責任ある水資源管理の実践へ 無料ダウンロード
霜山 竣
霜山 竣
大学院では水文学、熱力学を専攻した。当社ではSBT設定支援、水リスク評価、CDP回答支援(気候変動、水セキュリティ)に従事。SBTNの開発プログラムにも参加している。

関連記事

ニュースレター登録

人気記事ランキング

タグ一覧